「させていただきます」考 再び
「させていただく」を、どうしても使ってしまいます。
「いたします。」では、相手に対する敬意がイマイチというか、少し突き放した感じがするのです。
「取り下げさせていただきます。」を「取り下げいたします。」と言うと、一方的に取り下げる感じがしてしまいます。
このような質問をいただきました。
結論から言うと、大切なのは、
(主に)相手(聞き手・読み手)に不快感を与えないかどうか
ということです。
そのため、時と場合によって、使ってよいかどうかの判断が変わります。
まずは「敬語の指針」でおさらい
「敬語の指針」(平成19年2月2日文化審議会答申)には、次のような説明があります。
基本的には,自分側が行うことを,ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。
(中略)
なお,ア ,イ)の条件を実際には満たしていなくても,満たしているかのように )見立てて使う用法があり,それが「…(さ)せていただく」の使用域を広げている。
(中略)
その見立てをどの程度自然なものとして受け入れるかということが,その個人にとっての「…(さ)せていただく」に対する「許容度」を決めているのだと考えられる。
……ということで、「許容」されるかどうかは、極論を言えば、個人の自由。
入学試験や検定試験を受けるのでなければ、「させていただく」を好きに使ってよいわけです。
ただ、私としては、使うべきではないと考えるケースがあります。
「させていただく」は怒りや敵意も表現できる
テレビドラマで、ときどき見るシーン。
事実と異なる記事を書かれた! 名誉棄損だ!
医師のミスで家族が命を落とした! 医療ミスだ!
訴えさせていただきます!
これは、相手の許可を得ていない。
それに「恩恵を受ける」という感謝の気持ちでもない。
あきらかに「敵意」「怒り」ですよね。
昭和のドラマだと、夫婦げんかをした妻が、
実家に帰らせていただきます💢
と、夫に言い放つシーンもありましたね(笑)
こんなふうに、「敬語の指針」にある(ア)(イ)に当てはまらない使い方もあります。
それどころか、「第1 基本的な認識」に書かれている
敬語は,人と人との相互尊重の気持ちを基盤とすべきものである
といった記述にも当てはまりません。
でも、ドラマなどで見聞きするせいか、特に違和感がないですよね?
そのため、このような怒りや敵意により、あてつけで「させていただく」と言っているんだ……と受け止められることだってあると思いませんか?
相手が不快に思うおそれがある場合は、使わないほうがいいに決まっています。
「させていただく」を使わないほうが良いケース
では、どんな場合に不快に思われてしまうでしょうか。
例えば、役所で
- 延々、待たされた
- 高額な保険料や税額の通知が来た
- 申請したのに却下された
- せっかく来たのに窓口が閉まっていた
- 家を出るときに家族とケンカをした
……などの理由でイライラしているとき。
「それは禁止させていただいております」
「本日は休館日とさせていただいております」
「様々な条件を勘案して決めさせていただいております」
「その日はワタクシ、休暇をとら(さ)せていただいております」
なんて言われて、カッチーーーーーン💢💢💢
ってこともあるかもしれませんよ~
というわけで、ご質問のケースは、相手が「取り下げろ」と言ったのであれば、相手の許可を得ているので、「取り下げさせていただきます」と言っても良いのではないでしょうか。
「取り下げろ」とは言っていないけど、ネチネチとケチをつけてきたから取り下げる……のであれば、相手との関係性や、そのときの状況、コンテクスト(文脈)によりますね。
対面であれば、しおらしい態度(表情)、声色で、思いは伝わるかもしれません。
メールなど活字だと、状況によっては怒りをかうこともあるでしょう。
取り下げろとは言ってないだろう! オレのせいにする気か?
とか、
安易に取り下げるんじゃなくて、指摘された部分の改善を考えろよっ!
とかって怒られるかも、な~んて思ったり。
そもそも敬語って、相手との距離があることを表すのです(ウチとソト)。
だから、「させていただきます」で距離を置かれてしまうと、「あ、怒った? なんか気に入らないのかな?」って思っちゃうかも。
私なら、「なるほど。おっしゃる通りです。これは○○(不公平、時期尚早ナド)でした。取り下げます。ご指摘ありがとうございます」なんて言っていただくと、ご機嫌です♪
ちなみに、「させていただきます」については、以前、以下の記事を書きました。
こちらも、ご参考までに~
このような、言葉に対する「違和感」、「モヤモヤ」、ありませんか。
ご質問、お寄せください♪
出張中とか、お仕事の〆切が迫っているとかでなければ、ソッコーでお答えします(笑)
| 固定リンク | 0
「言葉・文章の書き方・広報・日本語」カテゴリの記事
- 「お返事をいただけていないようです」は正しい表現?(2022.12.14)
- 読点「、」の適切な数は?(2022.12.12)
- 「させていただく」って謙譲語?(2022.08.03)
- 「や」の使い方(2022.07.23)
- 「標題」か「表題」か(2022.05.31)
「ビジネスメール」カテゴリの記事
- 「お返事をいただけていないようです」は正しい表現?(2022.12.14)
- 読点「、」の適切な数は?(2022.12.12)
- 「させていただく」って謙譲語?(2022.08.03)
- 「や」の使い方(2022.07.23)
- 「標題」か「表題」か(2022.05.31)
「気になる言葉」カテゴリの記事
- 「お返事をいただけていないようです」は正しい表現?(2022.12.14)
- 読点「、」の適切な数は?(2022.12.12)
- 「させていただく」って謙譲語?(2022.08.03)
- 「や」の使い方(2022.07.23)
- 「標題」か「表題」か(2022.05.31)
「敬語の使い方」カテゴリの記事
- 「させていただく」って謙譲語?(2022.08.03)
- 上司の指示が正しいのかどうか判断できずに困っています(2022.03.27)
- 新「公用文作成の要領」に意見を送ってみました(2021.12.20)
- 『令和時代の公用文 書き方のルール―70年ぶりの大改定に対応』読者プレゼント(2021.11.16)
- 「させていただきます」考 再び(2021.11.14)
「令和時代の公用文」カテゴリの記事
- 「お返事をいただけていないようです」は正しい表現?(2022.12.14)
- 読点「、」の適切な数は?(2022.12.12)
- 「させていただく」って謙譲語?(2022.08.03)
- 「や」の使い方(2022.07.23)
- 「標題」か「表題」か(2022.05.31)
コメント