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「アイ・ラブ・オバマ」

※これは5年ほど前に書いた、エディタースクールの課題文です※

 

夕食まで間があるので、宿の近くを歩いてみようと思い立った。

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どんよりとした雨雲を水面に映す小浜湾を背にして、宿の裏手の道に出る。

まっすぐに伸びた道には、長い年月を経たであろう家が建ち並んでいた。
光沢のない蝋(ろう)色の瓦で葺いた屋根に白茶や乳白色の土壁。
窓や玄関には、瓦と同じ色合いの格子枠がはまっている。

古物商や雑貨商らしき店先には人気がない。
資料館の入り口も施錠されている。
息を殺してじっと建っている家並みは、
まるで映画撮影のセットのようだった。

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この通りは、「鯖(さば)街道」と呼ばれ、千年以上も前から若狭名産の鯖、カレイ、小鯛ほか、様々な海産物や、北前船から陸揚げされた物資が都へ運ばれていた。

都からは、仏教美術や詩歌、多くの芸能も招来し、この地域の文化は、京の都の影響が強いという。

突然、雨粒が傘を打つ音が大きくなったので、
慌てて引き返した。
宿に戻ると夕食の仕度ができていた。

 

「お帰りやす。急に雨がつようなりましたなあ」

 

甘みがあり、歯ごたえのしっかりしたイカの刺身に、
甘辛い味がよく染みた子持ちカレイの煮付け。
生ガキ、浜ゆで越前ガニ、フグの白子・・・・・・と次々に皿が並ぶ。

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「えらいすんませんなぁ。この町にはなんにもあらしませんやろ」

小浜市は原子力発電所の誘致に反対したために取り残され、貧しくなったと女将は言う。
そこで、次期米大統領に決まったバラク・オバマ氏が、同じ名前のこの町を訪れてくれることに大きな期待を寄せている。

ここはかつて日本の玄関口として、
外国との交流が盛んだった土地で、
日本にはじめて象が上陸したのも小浜湾らしい。
同時に拉致被害者が北朝鮮へ連れ去られた海岸でもある。

 

Omotenashi

夜中にふと目が覚めたので、テラスに出てみた。

少し怒ったように海岸に打ちつける波の音以外は何も聞こえない。
漆黒の闇に包まれ、空と海と山の境目もわからない。

 

急に怖くなって、部屋に戻り、柔らかい布団に潜りこんだ。

 

 

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