【おとなの日本語力と古典文法】その1-ウサギ料理がおいしい「カノヤマ」って店
私はかつて、某大学受験予備校で古文を教えていました。
ふとしたきっかけで思いだし、初回授業で話したことをちょっとご紹介。
♪うさぎおいし、かのやま~♪
ウサギ料理がおいしい「カノヤマ」って店は、
どこにあるか知っていますか?
・・・いや、冗談ですよ。
うさぎ追ひし彼の山
ですよね。品詞分解すれば、
うさぎ+追ふ+き+か+の+山
「き」は、過去の助動詞。「か」は遠称の代名詞。
ウサギを追いかけた、あの(懐かしい)山
ってな意味ですかね。
じゃあ、これは?
♪おもえばいととし~このとしつきぃ~♪
これは、「仰げば尊し」のワンフレーズです。
今は「仰げば尊し」とか「蛍の光」とかって
卒業式に歌わないらしいですけどね。
まぁ、それは置いといて、オトナのあなたに。
思い返してみれば、いとおしいなぁ。この年月が。
・・・ブーバッテン
思ふ+ば+いと+疾し+こ+の+年月
「いと」は副詞で、英語で言うとveryですね。
思い返してみれば、とてもはやかった(あっという間に過ぎた)な~この年月は。
です。「疾し」が訳せなければ、試験では0点でしょう。
はい、じゃあ次。
♪いつしかとしもすぎのとを~♪
♪あけてぞけさはわかれゆぅくぅ~♪
「杉の戸」は掛詞ですね。
「年も過ぎる」と「杉の戸を開ける」を掛けているのでしょう。
掛詞は両方を訳さなければいけません。
ちなみに、「行く」は、動詞「行く」の連体形です。
係結び(懐かしいでしょ?)「ぞ」の結びとなっています。
はい、次。
♪いまこそわかれめーーー!♪
♪いざさらば♪
この訳は?
今こそ分かれ目だ。いざ、さらばじゃ!
ブーバッテン
今+こそ+別れ+む
「め」は、分かれ目、切れ目の「め」ではなく、
意志・推量の助動詞「む」の已然形です。
係助詞「こそ」の結びとなっています。
訳は、主語が1人称なら意志、2人称なら勧誘、3人称なら推量・・・でしたね。
今こそ、お別れしましょう
ってな訳ですかね。
高校生相手じゃないんで、どんどん行きます。はい、次。
学生はすべからく学問を本分とすべきである。
この意味は?
学生はすべて、学問を本分とすべきである
ブーバッテン
す+べし+あり+あく
「為(す)」はサ変動詞で、「べし」は可能・当然・推量の助動詞。
「あり」はラ変動詞の未然形で、そこに「あく」がついたもの。
この「あく」は、「く語法」とも呼ばれているものですね。
「あく」
接尾語的に用いられ、「事」を意味すると推定されている語。 (新明解古語辞典より)
したがって、直訳すれば、
学生がするべきであることは
ここから、「学生は当然、学問を・・・」といった意味になる。
参考 「すべからく」
近年、「すべて」の意で使う例が多くあるが、誤り。
文化庁が発表した平成22年度「国語に関する世論調査」では、「学生はすべからく勉学に励むべきだ」を、本来の意味である「当然、ぜひとも」で使う人が41.2パーセント、間違った意味「すべて、皆」で使う人が38.5パーセントという結果が出ている。(デジタル大辞泉より)
私は、「大学受験の」古文の学習法として、
英語と同じだと思え。
歴史的仮名遣いと単語、文法を覚えよ。
と言っていました。
だって、アルファベットと単語、英文法を知らなきゃ、
入試問題の英語は解けないでしょ。
ネイティブの方や、帰国子女でもなければね。
さらに、こんなことも言っていました。
入試問題の解き方は、数学と同じだと思え。
センスに頼らず、公式に当てはめて解け。
国語が得意な人にありがちな「なんとなく」。
それが通用するのは高校生まで。
大学入試では通用しません。特に難関大はね。
私が教える「公式」を覚え、問題を解くことで、
「この問題はこうだから、この公式を使う」
という判断力を磨き、「解法」を身につける。
その結果、誰もが同じ答えを導き出すことができる。
そうじゃなきゃ、古文の訳なんて採点できませんよね。
これが「正しい国語の学習法」とは言いません。
でも、古文をきちんと学習した人は、
正しく日本語を理解している、
あるいは理解できる・・・と思います。
なお、「古文」といっても、「古典文学」ではなく、
「古典文法」(文語文法)です。
例えば「源氏物語が大好きで、暗唱できる人」は、
それなりに文法力もついているかもしれないけど
社会に出たら、古文なんて役に立たないしぃ~
そんなことはないんですよ
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コメント
>noga様
コメントをいただき、ありがとうございます。
「蛍の光」なんて、3番4番の歌詞を知ってビックリしました。
そういう歌だったのか~と。
私は最近、大学院の修士課程を修了しました。
先生はずいぶんと年下でしたが、でも、そのご恩は尊いと思っています(笑)
日本の教育、特に日本の国語教育については、「日本語が滅びるとき ―英語の世紀の中で」(水村美苗著/筑摩書房)を読んで愕然とし、問題があるのだな、とはうっすらと認識しています。
http://csms-seo.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-3d10.html
でも、日本語は美しい。
「思いやり」とか「もったいない」といった哲学があるとも思うのです。
投稿: 小田順子 | 2012/04/15 02:44
イギリス映画の ‘チップス先生さようなら’・(Googbye, Mr. Chips) ・を見た。彼は立派な先生で学内から尊敬されていたが、学生から見た師の ‘恩’ といった主題にはならなかった。
‘仰げば尊し’ は1884年(明治17年)に発表されたアメリカの歌 (Song for the close of school) の替え歌で、「身を立て、名をあげ、やよ励めよ」、の歌詞は、一部に批判されているという。
日本語には敬語があり、人間平等の精神が根付かない。だから、上から下への利益供与はオンであるが、下から上への利益供与はオンにはならない。こうした相対的な判断の欠けた恩賜や恩給の言葉も戦後は消えてなくなったが、恩師はどうやら残っているようである。
学恩を受け、あるいはお世話になった師を、素朴に感謝で想いつつ、努力して、社会に貢献せよ、そして驕らずにさらに精進せよ、ということで、実に真っ当な歌詞であると思っている人も多数いるが、世俗の上下にとらわれた考え方である。
このような我が民族の序列観には問題があるが、今も昔も変わらない。’仰げば尊し’ は、旋律ではなく歌詞の内容を改善する必要がある。
http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/terasima/diary/200812
我が国は ‘下の者ほど割が悪い’ という身分格式の社会である。
つまり、身分 (地位) により格式 (待遇) の定まる社会である。
礼儀作法は、序列差法である。
このような序列秩序を保たないと社会はやっていけない事情がある。
身分の上下にこだわらなくてはいけない。’人間は生まれながらにして平等である’ という精神は受け入れられ難い。
だから、自己の地位の向上が渇望され、向上心が生まれる。
‘、、、、名誉ある地位を占めたいと思う’。( We desire to occupy an honored place …. ). こうした心意気は新憲法の前文にも表われている。
言葉づかい (階称) のある日本語では、こうした発想法 (mentality) を変えることは難しい。
我が国は、外国の優れた点だけを取るいわゆる ‘パクリ文化の国’ であるが、哲学だけはついに取れなかった。
投稿: noga | 2012/04/07 05:15
とてもわかりやすい説明ありがとう
G、全問正解でした(笑)
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「め」は、分かれ目、切れ目の「め」ではなく、
意志・推量の助動詞「む」の已然形です。
係助詞「こそ」の結びとなっています。
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ふむふむ
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訳は、主語が1人称なら意志、2人称なら勧誘、3人称なら推量・・・でしたね。
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そうだったのか!
でも、そんなこと誰も教えてくれなかったよ(忘れてしまったのかもしれないけど)
投稿: G | 2012/04/03 00:46