自治体Webサイトのあるべき姿 ―再び「Public Relations」
■情報共有による共感の時代 ―ソーシャルメディアの台頭
「情報公開から情報共有へ」。私が東京・中野区で、公式Webサイトのリニューアルを担当したときに掲げたキャッチフレーズです。
ともにまちを作り上げるには、情報を共有することが大前提となります。「知りたいなら教えてやらなくもない」という情報公開ではなく、正確な情報を、進んで、迅速に提供し、共有していくことが不可欠です。
これは、当時の私が書いたもの。もう8年ほど前になるでしょうか。「21世紀の中野を考え実践する職員プロジェクトチーム」の提案書として、今でも区のサイトに掲載されています(※1)。隔世の感がありますね。
本連載の第1回でご紹介した、青森県のWebマーケティングセミナーでは、「情報は発信するだけではダメで、共有、共感が必要だ」という発言がありました。また第20回では、「来るべきソーシャルメディア時代の新しい生活者消費行動モデル」として、「SIPS」(共感、確認、参加、共有・拡散)をご紹介しました。今や、「情報共有」による「共感」の時代です。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアの台頭が、それを物語っています。
■「共感」は「対話」から ―表現力より聴く力
一方的な情報発信は、情報共有ではありません。押しつけがましいので、共感も得にくいでしょう。必要なのは「対話」。<対話をとおして情報を共有し、共感を得てお互いに好感を抱く……これは、リアルな人間関係と同じです>(連載第13回から引用)。
対話は、相手の話を「よく聴く」ことから始まります。ソーシャルメディアでも、他人の投稿をきちんと読んで、マメにコメントを付けるなどして対話を促進する人のほうが、ファンを増やしているようです。考えてみれば、「あなたの話は聴かないけれど、私の話は聴いてね」「あなたには共感しないけれど、私には共感してね」というのは無理があると思いませんか。情報を伝え、共感を得るには、まず相手の話を聴いて、相手に共感することが必要です。
優れた話術や文章力を持つ人は魅力的ですが、それらの「表現力」は、「思考力」と「聴く力」の上に成り立っています。言葉で表現するには、思考力が必要です。深く考えずに、思いつきでダラダラと話したり、文章を書いたりされてはたまりません。考えるためには、情報、知識などの材料が必要です。材料は、よく読み、よく聴くことで得られます。つまり、表現力よりもまず、聴く力が大切なのです。
表現力<思考力<聴く力
■Webサイトとソーシャルメディア ―対話ツールとしての活用
いくらソーシャルメディアが流行しても、自治体サイトが不要になることはない、と私は考えています。自治体の持つ情報は膨大かつ複雑で、ソーシャルメディアではカバーしきれないからです。今後も自治体サイトは、わかりやすい、役に立つものであることを追求し続けなければなりません。
では、「わかりやすいサイト」とは、具体的にどういうものでしょうか。サイトのどこに、何を、どういう順で掲載すればいいのか。どのような文章で、言葉で表現すべきなのか。その答えは、生活者との対話の中にあります。
対話には、ソーシャルメディアを活用します。連載第17回でご紹介したような方法です。一例として、Twitterで見つけた声をご紹介します。
- どうして自治体のウェブサイトは感心するほど見にくいのか。字が小さくカラムが大量にありデザインに統一性がなくリンク切れが激しい。自治体のすばらしさをアピールする文章ばかりで手続きなど本当に必要な情報が最高にわかりにくいところに配置されている。
- 税金を支払いに市役所へ行ってやりたい気持ちはあるのだが、平日は何時から何時で土日祝日はどんな感じなのかとか、市役所のサイト見ただけでは見つけられず、半ば断念。…金はいらんということでいいのか?ええのんか?
- 検索で役所のサイト内のPDFファイルを直接見つけた場合、それがサイト構成のどこに位置しているかがサイトマップ等で調べても全然分からない。お役所のサイトって本当に分かりにくくて困る。意図的に難解にしてるのかと疑ってしまう
- 役所仕事への苛立ち収まらず!!本当にムカつく!!!22年度分って言うと伝わり辛くないか?要するに21年分って言えよ!!!民間企業だったら言い方悪過ぎでクレームだよ!電話で確認したのは何だったの!!コッチは子どもがいるから出歩くのも難しいのに平気で何回も手続きに来いって言う!!
(※下線は筆者によるもの)
このツイートに謝罪ツイートをすることだけが対話ではありません。こういった声を「聴き」、それをもとに「思考し」、改善(「表現」)する。このサイクルも生活者との対話です。サイトはぐっと良くなり、結果として、問い合わせや苦情を減らすことも、共感を得ることも可能です。
■自治体のイノベーション ―生活者と向き合う
Twitterで、次のような声も見つけました。
- でも公的サービスとSNSって、もっとリンクしてればラクで楽しいのになあ。図書館で借りた本のデータベースが個人別にブクログみたいになってて、同じ本借りた人同士でお話しできたらと思うし。何より、自分が本借りた行為だけで、そのままログが残れば別のサービスで記録しないで済む。
- お役所の公式サイトでダウンロードできたらなあ。そして予防接種のタイミングとか、googleカレンダーで同期して管理。個人データの管理は慎重にすべきだけど、SNSサイトに広がる可能性もあるよね。地域の子育て支援施設やイベントともリンク。
- 基本は紙の手帳でいいけど、サービスとしてそれこそiPhoneアプリとかあればいいのに。QT @○○【日本の母子手帳を変えよう!】 母子手帳、それはへその緒の次に母子をつなぐもの。とっても大切。
これは夢物語ではありません。TwitterやFacebookは、専用アプリケーションを作れば、色々なことができます。Googleは、メールやスケジュールなど、多くの機能があります。佐賀県武雄市が「F&B良品」を作ったように(連載第21回参照)、地元企業と協力して、楽しみながらイノベーションを起こすことも不可能ではないはずです。それこそが、Public Relationsではないでしょうか(連載第12回参照)。
地域によって、生活者のライフスタイルは異なり、興味・関心の持ちどころも異なるでしょう。あなたの地域の生活者としっかり向き合い、対話を通して、自治体サイトのあるべき姿を探ってください。
この連載は今回が最終回ですが、私はFacebook、Twitter、mixi、Google+、LinkedInを利用しているので、お気軽に声をかけてください。あなたとの対話を楽しみにしています。
※1東京中野区「基本構想改定に向けた提案書 ―新しい自治のあり方」(2003年7 月31 日) (PDFファイル)
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成24年3月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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