助詞の「は」は既知、「が」は未知を意味する!?
助詞の「は」と「が」について、以前、こんなことを書きました。
「が」は未知のものを受け、「は」は既知のものを受ける。
例えば、「むか~し昔、あるところに、おじいさんとおばあさんガいました」と言ったとき、このおじいさんとおばあさんは、突然登場した未知の人です。
でも、「おじいさんハ山へ芝刈りに、おばあさんハ川へ洗濯に行きました」と続けた時、このおじいさんとおばあさんは、名前は知らないけど、既に出てきた既知の人です。
(「助詞の「は」と「が」、使い分けていますか」より抜粋)
この投稿に、次のご質問をいただきました。
検索から来ました。
「君が好きだ」の「が」は「君」が未知の人ではないですけど、これは何なんでしょう?
そもそも「君は好きだ」だと「~、でも君の仕草は嫌いだ」みたいなつながりを想定してしまいますし…??投稿: 流れ人 | 2012/03/26 17:57
このご質問に回答したところ、またご質問が。
やりとりがとっても長く、濃いものになったので、
せっかくですから、記事としてここでまとめておきます。
私の回答は次のとおりです。
コメントをいただき、ありがとうございます!
鋭い突っ込みです~「君が好きだ」の「ガ」は、「君ヲ好きだ」
の、「ヲ」と同じ働きだと思います。------------------------------
<格助詞の「ガ」>
希望・好悪・能力などの対象を示す。
「水―飲みたい」
(「デジタル大辞泉」より)
------------------------------ついでに、係助詞の「ハ」について。
よく使われるのが次の用法です。------------------------------
判断の主題を提示する意を表す。
「犬―動物だ」「教育―国民の義務である」
(「デジタル大辞泉」より)
------------------------------ご指摘の「君ハ好きだ、でも君の仕草ハ嫌いだ」の「ハ」は、次の用法かと思います。
------------------------------
ある事物を他と区別して、または対比的に取り立てて示す意を表す。
「風―強いが、日―照っている」
(「デジタル大辞泉」より)
------------------------------あれこれ考えてみると、おもしろいですよね
(おもしろくないか )投稿: 小田順子 | 2012/03/26 18:19
するとまた、ご質問が。
返信有難う御座います!
なるほど…そもそも助詞が違うのか。
それなら、主体を表すものでも
「彼こそが、天才である」
「彼こそは、天才である」
なんかはほぼ違いがないように見えますが、前者の彼には未知のニュアンスがあるってことでしょうか。私の感覚だと上は「唯一無二、天上天下彼に比肩するものなし」的なニュアンス、下は「いわゆる世間一般で言う天才という部類のうちの一人」的なニュアンスを感じます。
つまり「が」のほうが特定が強い気がするのですが、これといって未知感は感じません。…?
ここまで書いていて思ったのですが、「が」は接続の前(この場合「彼」)を、「は」は接続の後(この場合「天才」)を重視しているのではないでしょうか…?
投稿: 流れ人 | 2012/03/26 23:42
これに対する私の回答は次のとおりです。
また難しい問題を与えていただき・・・ありがとうございます
大野先生の真似をすれば、
【1】「彼こそが、天才である」
→天才は誰かというと、彼である
【2】「彼こそは、天才である」
→彼はどんな人かというと、天才である
ご指摘の通り、「天才」をテーマにお話ししているときは、他の誰かではなく「彼」なんだ、と強調しているのだと思います。
今は「彼」について話してるんじゃなくて、「天才」について話してる。
「彼」は、「話題の中で初出」という意味では「未知」ですね。
(例)
A:世の中には「天才」っているもんだな~。
B:天才と言えば小田だよ。あいつは天才だ。
A:ああ、小田?あいつはバカだよー。頭ワルイ。
彼こそが天才だよ。(と、流れ人さんを指さす)
B:そうなの?誰?あれ。
ここで言う「既知・未知」は、話者の知人かどうかではなく、今、この場の話題の中で「初出」か「既出」かの違い、・・・という感じですかね~
流れ人さんのご指摘に答えていると、
まるで言語学や国語学の先生に
導かれているみたいです
・・・って、ホントに先生なんじゃ・・・
投稿: 小田順子 | 2012/03/27 01:25
そしてまたご質問が。
おお、明快な回答ありがとうございます…!
いえいえしがない高校生です(笑) 流れ人?あいつはバカだよー。
話題の中での初出、というと英語の「a」と「the」の違いを思い出しますね。
中学で冠詞を学んだ時「なんでこいつらこんな面倒なことしてるんだよ止めろよ今すぐ…」
と思ってそれ以降英作文でずっと苦しめられて来ましたが、日本人も似たようなことしてたんですね。
外国の方が日本語学ぶときに「てにおは」で詰まるってのも納得です。
ついでに思いついたのでもう一つ。
「彼が言った。」
「彼は言った。」
この場合、前後の文脈を想像すると、
「~である、と彼が言った。」
「彼は言った。~である、と。」
のように、後者では倒置が起きそうな気がするのですが、これは私のただの偏見でしょうかね?(笑)
後者の「彼」はまるで「君子に曰く」のような妙な威厳が感じられるのですが、前者の「彼」はただの日常描写の一部のような気がします。
これも助詞の用法に由来するものでしょうか?
質問ばっかりで申し訳ない限りですが、気が向いたらお願いします。
投稿: 流れ人 | 2012/03/28 19:16
・・・と、こちらは投稿の中でお答えしますね![]()
「a」「the」のお話、おもしろい![]()
本当に高校生なのでしょうか。
着眼点が鋭すぎます![]()
さて、回答ですが、まず、ご指摘の例文について。
- 彼が言った。
→それを言ったのは誰かというと、彼が言ったことだ。
例)「なんでこいつらこんな面倒なことしてるんだよ止めろよ今すぐ…」これは、私が言ったことではない。流れ人というハンドルネームの高校生――彼が言ったことだ。 - 彼は言った。
→彼は何と言ったかというと、次のように言った。
例)流れ人。その名を知らない人はいない、たぐいまれなる言語センスを持つ高校生である。彼は言った。「なんでこいつらこんな面倒なことしてるんだよ止めろよ今すぐ…」
2.は「倒置が起きそう」というご指摘は正しいと思います。
逆に言えば、彼が何と言ったかについては、後から言ってもおかしくないということですよね。
そして1.は、倒置が起きそうにない。
「彼が言った。~である、と。」は何だか変だ、ということですよね。
それはおそらく、
ちょ、ちょっと待ってよ!「なんて言ったか」の前に、そもそも彼って誰???
って感覚ではないかと。
大野晋先生が次のように書かれています。
言葉に表現されていなくても、事実そのものについて話し手・聞き手の間にどんな了見が存在するのか、また、一つの文が他の文とどう関係してゆくかという点について深く考慮することが非常に大切だと私は思う。
(「日本語の文法を考える」岩波新書)
話題の「既知」と「未知」についても、正確に言えば、話し手(書き手)が「既知扱いをする」か、「未知扱いをする」かということなのです。
「ハ」は、その上に来るものをテーマとして提示し、それを話し手は既知扱いにします。
そして、そのテーマについて説明を加えるのです。
一方「ガ」は、その上に何らかの新しい情報が来て、つまり話し手が未知扱いにして、ガの下に来るものの条件付けをします。
ですから、質問者、流れ人さんが
「が」は接続の前(この場合「彼」)を、「は」は接続の後(この場合「天才」)を重視しているのではないでしょうか…?
と書かれていたのも、正解です。
こんな例文もあります。
マリリンモンローがディマジオと結婚!
マリリンモンローを知らない人はまずいないでしょうけれど、それを敢えて「ガ」で受けて未知扱いし、驚きや情報の新しさを強調しています(「日本語の文法を考える」岩波新書)。
質問者、流れ人さんが「”が”のほうが特定が強い気がする」と書かれていたのも、このマリリンモンローの例と同じことかな、と思います。
どうでしょう。腑に落ちるでしょうか・・・
ちなみに「日本語の文法を考える」(岩波新書)は、1978年に発行された本ですが、いまだに読み継がれている素晴らしい書籍です。
- 言語は、未知のことを伝えれば足りる
- 助詞は、客観的世界の事物を直接的に指す言葉ではない
- 昔の日本語では、もっぱら主語を表す役目をする助詞はなかった
などなど、ガとハ、既知と未知については、この書籍をじっくり読んでみてください。
おまけ
私の書いた「言いたいことが確実に伝わる メールの書き方」(明日香出版)」も、敬語や言葉の意味を学ぶにはおススメです 笑
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コメント
>流れ人さま
ごめんなさい。
例文の1.と2.がひっくり返ってましたね。
修正しました
”「は」だと話し手が既知扱いですから、話し手どうこうより発言内容により注目が集まる”というのは、「ハ」の特性を考えると、正解であり、当然の結果なのでしょうね。
ハとガの使われ方、歴史的変遷をひも解くと、「なるほど!」と思うことがたくさんあると思いますよ
投稿: CSMSライター:小田 | 2012/03/31 13:58
おお、わざわざ記事まで作っていただいて申し訳ない限りです。
倒置も強調の構文の一種である以上、「が」を使って倒置部以外まで未知扱い(強調)してしまうと文章に違和感が出る、ということでしょうか。
逆に「は」だと話し手が既知扱いですから、話し手どうこうより発言内容により注目が集まるってことですかね。
それとも既知扱い自体に要点があって「正論をいうことが多い」というバイアスが掛けられるのでしょうか…?
(それこそ「君子曰く」のように、話し手が既知である事自体が信憑性の担保になっている…??)
いろいろな解釈ができて奥が深いです。
『日本語の文法を考える』、早速探してみます。色々と有難う御座います。。。
投稿: 流れ人 | 2012/03/31 11:47