「見やすさ」≒「分かりやすさ」 ―Webデザイン・レイアウトは文章の理解を助ける
■分かりやすい文書構造
―視覚的な面での配慮も必要
本連載の第1回目「分かりやすいWeb文章の要素」を覚えていらっしゃるでしょうか。Web文章の分かりやすさを左右する要素として、四つの「構造」と一つの「マインド」」を挙げました。その四つのうち、二つ目の「文書構造― Document」について、客観的に評価できる方法を見つけたので、ご紹介します。
「文書」とは、ドキュメントのこと。つまり、写真や図表、レイアウト、デザインなど視覚的な要素も含めたものを、ここでは「文書」と呼んでいます。文章の分かりやすさだけではなく「見やすさ」も、分かりやすいWeb文章作りには欠かせないものです。図表や写真を使ったり、文字の大きさや位置に配慮したりと、視覚的な面で工夫をすることも重要です。
では、写真や図表はどのくらい、どのように使えばいいのでしょう。今まで私は、「文章と図表の比率は5対5くらい」と考えていました。しかし、その根拠はあいまいです。また、デザインは感覚的、主観的なもので、評価のしようがないと思っていました。ところが、デザインの分かりやすさを客観的に評価する方法があることを、つい最近、知りました。
■デザインの分かりやすさを客観化
―版面解析ソフトによる数値化・分析
チラシやカタログ、申込書などの紙面デザインの特性を数値化する「フォームアナリスト」というソフト(※1)があります。これは、紙面を構成する要素を、文章、写真や図表、記入欄、余白などにエリア分けし、その中の文字数、文字の大きさ、図版が占める割合を計測するものです。この数値をもとに、デザイン上の特性を客観的に分析することが可能になるのです。
矢口博之准教授(東京電機大学理工学部・エルゴノミクスデザイン研究室)が、ある保険会社のパンフレットを解析した結果は次のようなものです。
- 横に長く(579mm)、全体を見渡しにくい
- 条件間で色分けがされていない上、補償額と条件の距離が遠く、わかりにくい
- 説明文の文字に13級(9ポイント相当)が多い
→読みにくい、読まれない可能性がある
■見やすさの評価ツール
―基準は「情報量19%未満」
「フォームアナリスト」は、専門家による分析が必要ですが、「見やすいデザイン」かどうかを自主評価できるツールもあります。チラシなどを画像データにしてこのツールでチェックすると、(1)情報量(2)タイポグラフィ(文字)(3)色彩設計について、基準を満たしているか、評価できます。これは、版面の情報量を、白と黒の2階調の画像に処理することによって数値化するものです。
ユーザーテストの結果、1ページあたりの情報量は19%未満が見やすさの基準となることがわかりました。表は、矢口准教授が解析したパンフレットの情報量を計測した結果です。
このツール(ドット・レシオ・カウンター)は有償なのですが、私も入手し、Webページを画像化してチェックしています。
■文字の見やすさ
―老眼・白内障でも読みやすいフォント
矢口准教授は、文字の大きさについても指摘しています。確かに小さい字は読みにくいのですが、情報量が多い場合、小さくせざるをえません。無理に削ると、情報不足により誤解を招く恐れもあります。
このジレンマを解決してくれるものに、小さくても読みやすい「UCDAフォント」(※2)があります。これは、次のような特徴があります。
- 小さい文字でも見やすい
- 長文の横組みにしても文章が読みやすい
- 老眼・白内障の人にも見やすい
- 印刷のにじみ・かすれに強い
これもユーザーテストにより導き出された客観的なデータに基づくものです。その見やすさは、下図をご覧いただければ、一目瞭然。複数の企業が、自社の印刷物にこのフォントを取り入れる予定だそうです。
図 「老齢基礎年金支給繰下げ請求書」の 「生計維持申立書」
※画像をクリックすると、別ウィンドウで大きい画像を見ることができます。
フォントの見やすさ、好みは、個人差があります。例えば、自治体がチラシなどによく使うポップ書体。「太くて見やすい。丸くて親しみやすい」と、誰もが感じるわけではありません。私は黒い部分が多すぎて重苦しい、読みにくいと感じます。ポップ書体を使った文書を見て、「役所はふざけているんですか?」と驚いた人もいました。
見たくない、読みたくないものは、理解しにくいでしょう。そもそも読んでもらえない可能性も十分にあります。客観的な評価に基づく見やすさ、読みやすさを心がけたいものです。
※1 フォームアナリスト
版面解析を行うソフトで、一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)と東京電機大学エルゴノミクスデザイン研究室が共同で開発したもの。
※2 UCDAフォント
これまで視認性で定評のあった「イワタUDフォント」をベースに、ISOの人間中心設計プロセスにより、株式会社イワタとUCDAが共同で開発したもの。
図はUCDAのサイト http://www.ucda.jp より
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成24年1月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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