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クレームを未然に防ぐ ― Twitter でアクティブサポート

■デマで自治体に苦情殺到 ―川崎市の「放射能ごみ問題」パニック

 川崎市の阿部孝夫市長は、福島県知事と会談し、震災で大量に発生した粗大ごみを受け入れることを表明しました(平成23年4月8日読売新聞)。ところが、その翌日あたりから、Twitter上で不安の声が上がり、それは徐々にエスカレート。4月13日の共同通信の記事によれば、「(福島市出身の)市長の売名行為だ。リコールする」などの苦情が殺到し、その数は2千件を超えたと報告されています。

 その結果、川崎市は公式サイト上で「放射能を帯びた廃棄物は処理しません」と発表するに至りました(川崎市公式サイト「被災地から発生した災害廃棄物の処理について」4月14日より)。

■デマや風評が作られていく過程 ― Google リアルタイム検索

 川崎市長の粗大ごみ受け入れ表明から、市民が不安を募らせ、抗議するに至る過程は、Googleのリアルタイム検索(※)で追うことができます。「川崎 ゴミ 放射能」でリアルタイム検索をしてみたところ、タイムラインのグラフは図のような状態でした。

図 リアルタイム検索のタイムライン

Lasdec08_1

 YOMIURI ONLINEに記事が掲載された翌日の9日から、このニュースに言及するツイートが発生し、14日が最もツイートが多くなっています。

 9日の発生時点では、以下のような「不安」をつぶやいている人が数人です。

4月9日
川崎市、福島から震災の粗大ごみ受け入れ:社会:YOMIURI ONLINE(読売新聞)…via @yomiuri_online 高濃度の放射性物質が付着したゴミはもってこないよね??付着している場合、焼却すると放射性物質は拡散 する…

 ところが、日を追うにつれて、ツイートは感情的なものが増えてきます。

4月10日
川崎市長の馬鹿野郎! 放射能に汚染されたゴミを川崎が引き受けるだ~? 何考えてるんだ?

 感情の高ぶりは、行動へとつながっていきます。

4月11日
川崎市長の独断で福島の放射能汚染されたゴミを引き受け焼却炉で燃やすことを決定しました。決して許されま せん。○○さん、市民の健康・安全を考えるなら断固抗議運動をして下さい。

 

4月12日
先ほど、川崎市環境局処理計画課にクレームの電話しました。川崎だけがやる訳じゃないと言われたら、川崎がやる事が今後の日本を左右すると言いましょう。 一刻も早く首都圏をパニックにさせるような愚行を止めさせたい。川崎市の低レベル放射能ゴミ焼却問題は前文撤回が必須。

 Twitterの情報伝播力が、苦情を増やす原因になった可能性も考えられますね。

※Google リアルタイム検索とは

 数十秒前に掲載された情報も検索可能なしくみ。現在は、Twitterとの契約が切れたことにより利用停止となっている。 同じような機能をもつものとして、「TOPSY」がある。(http://topsy. com/) 

■再び「ローカルガバメント3.0」 ―住民とのコミュニケーション

 今回の災害では、自治体のWebサーバがダウンしていても、情報を発信し続けることができました。連載第14回でお伝えした、「ローカルガバメント 1.0」、つまり情報発信のレベルで、Twitterを始めとするソーシャルメディアを最大限に活用したといえるでしょう。

 また、猪瀬東京都副知事が、Twitterで得た情報から行動を起こし、多くの人の命を救ったことは、Twitterを情報収集ツールとして「ローカル ガバメント2.0」レベルで活用した事例です。

 では、「ローカルガバメント3.0」レベルでの活用は、どのようなことが考えられるでしょうか。今回の川崎市の事例に当てはめてみてください。例えば、 「高濃度の放射性物質が付着したゴミはもってこないよね??」というつぶやきに、「はい。放射能を帯びた廃棄物は処理しません。なぜならば、…」と即座に答えていたら、どうなっていたでしょうか。

■クレームを未然に防ぐ ― Twitter による「アクティブサポート」

 アメリカでは、大企業が、Twitterを使った新しい顧客サポートを実施しているそうです。サポートチームは、企業の公式アカウントに話しかけてきた ユーザーに答えるだけではなく、自社製品やサービスに関する愚痴や不満のツイートを見つけ出し、話しかけていきます。

 これは、「アクティブサポート」と呼ばれ、日本でも、ソフトバンクや、WIMAX通信サービスを提供するUQコミュニケーションズ、日本マイクロソフトなどが取り組み始めているとか。  

 苦情をいうために、窓口に出向いたり、コールセンターに電話をかけたりという行動を起こす時点では、もうかなり感情的になっていることが予想されます。 しかし、ユーザーの何気ないつぶやきを見つけ出して、丁寧に対応していくと、ユーザーはかえって感謝し、その企業のファンになることも期待できます。苦情を言われるのを待つのではなく、「ぼやき」の段階で積極的にサポートするツールとして、Twitterが活用されているわけです。

日経ビジネスオンライン「大企業が注目するツイッターサービス「アクティブサポート」とは何か より)

■積極的なコミュニケーション ―自らフォローし、話しかける

 自治体で「アクティブサポート」を行うには、大企業のように、特別なシステムの導入や予算の確保は不要です。そもそもTwitterは無料ですし、つぶやきを拾うのであれば、連載第14回にご紹介した無料ツール「twilert」でもいいでしょう。「○○市」、「○○課」あるいは、具体的な事業名(例:放置自転車)や施設名(例:○○図書館、○○公園)などのキーワードを設定して、アラートが送られてくるようにする。これだけでも有益な情報が得られます。  

 また、フォロワーを増やすためには、こちらから積極的にフォローすることも大切です。企業や個人事業主は、Twitterユーザーのプロフィールを検索して見込み客を見つけ、フォローしています。自治体も、以下の図のように、職業や地域、興味のあるものなどをキーワードとして検索するといいですね。

図 Twitter のプロフィール検索ができる無料サイト

Lasdec08_2

 相談や苦情を待つのではなく探す、こちらから話しかける。このような積極的なコミュニケーションをとれば、自治体に対する興味・関心、信頼感、満足度、 好感度も向上すると思いませんか。

 

小田順子プロフィール

1965年生まれ。1992年4月、東京中野区に入区。区立小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現 在は広報コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。 日本言語学会会員。日本災害情報学会会 員。放送大学大学院修士課程文化情報プログラムに在籍

※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成23年8月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。

 

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