異質排除は思考停止の始まり
言葉の力 - 「作家の視点」で国をつくる (中公新書ラクレ)を、今さらながら読了。
以下、覚え書きです。
タテの人間関係を避け、ヨコの人間関係だけを求めるのは、自分の分身としてしか他者を認めていないからだ。その場合の友だちとは、自分に無限に同意してくれるサイクルの一環でしかない。
自分と違う存在という「他者」の認識がなければ、コミュニケーションとは言えない。
確かに、役所にいたころも今も、同年代とだけ群れる若い人が多いと感じる。
異質なものに触れたり、それを理解しようとしたりすることは、結構、パワーを必要とするから、若いうちに!と思うのだけれど。
これまでのような言わずもがなの仲間内のコミュニケーションではなく、価値観の異なる相手との対話により問題解決をすることが求められているのです。(「<言葉の力>再生プロジェクト活動報告書」より)
そのためには、相容れない考えを持つ相手であっても正確に理解し、きちんと言葉で自分の考えを伝えることが大切です。
きちんと伝えるには、まず「正確に理解すること」。そのためには、積極的傾聴。先入観を持たずに聴く、読むこと。自戒の念を込めて。異質排除は思考停止の始まり。
対話とは、言葉のキャッチボールである。投げては受け取る練習を繰り返さないと、キャッチボールができるようにはならない。「否定する前に、まず相手に質問をして、(相手の話の)命題をきちんととらえなさい」と指導するのは当然なのである。(北川達夫さんの言葉より)
「それは違う」の前に、「なぜそう思うの?」「それはこういうこと?(と、自分の言葉で言い直す)」・・・「質問力」かな。
「ファティック」とは何か?どうでもいいような会話を続けながら、人と人とをつなぎ合わせる行為のことである。
金田一秀穂先生のアメリカ留学経験から。エレベーターの中で見知らぬ他人同士が会話する習慣がないのは日本とミャンマーくらいだそうな。
ファティックって、Twitterなどソーシャルメディアに通じるノリかも。
海軍大臣の山本権兵衛は怒った。美文は「事実を粉飾して真相を逸」する、と。(中略)緊張の中で責任者の山本が「詩で書かれてたまるかというリアリズム」を求めたのも当然だった。
霞が関の言葉は、文学的であっても物語的であってもいい時があるでしょう。でも、市区町村役場の職員が、美文を書くことを必要とされる局面は多くないと思う。
例えば給付金や健康保険のお知らせは、ただただ、わかりやすく正確に伝えてほしい。詩や古典の引用、隠喩なんて要らないし、想像力を働かせなければ理解できないような文章では困る。
被災を受けられた皆さんをはじめ、すべての国民が・・・(2011年3月25日、菅直人首相記者会見より)
「被災を受ける」???
「言葉の力」は大切。「言葉の力」を信じている。それはこのブログでも書いてきたとおり。
でも、拙著には
文章術の書籍にありがちな、 「優れた本をたくさん読め」とか、「語彙を豊富に」「良いフレーズはメモを取れ」「新聞の社説を書き写せ」といった、手間のかかる文章上達法はいっさい書いていません。行政の職員に必要とされるのは、小説家やコピーライターのような名文を書くことではないからです。
と書いた(「誰も教えてくれなかった公務員の文章・メール術」(学陽書房)より)。
元区役所の万年ヒラ社員としては、住民に対していかに迅速に、正確に、そして正直に伝えるか、が最重要事項だと思ったから。
文学的素養はあるに越したことはないけれど、本は読んだほうがいいとは思うけれど、「霞が関文学」同様、「都庁文学」も縁遠い存在。
急に思い出した。パスポートを取りに行った時のこと。
当時、小学1年生の息子に、「生年月日は?」と聞いていた。
息子には絶対、意味がわからないので、私が答えようとしたら怒られた。
「本人確認」だから、親が代わりに答えちゃダメなんですと(笑)
そういうことも含めて、なのかな〜。
本を読むことで他者、異質なものに触れ、自分の世界を広げ、想像力をつけて、コンテクストを理解する力もつくのかな〜。
「40代過ぎてからの読書は意味記憶でしかない」
とも書かれていたけど、40代以降の職員はどうすれば・・・?
小泉さんには「言葉」があった。その後を継いだ首相たちを見ていると、「言葉の力」が次第に失われている。
安倍さんで「緊張感」が消え、福田さんで「夢」が消え、麻生さんで「知性」が消えた。”宇宙人”の鳩山さんで「リアル」というものが完全にすっ飛んでしまった。
そして菅さんで跡形もなく消えたもの。「言葉の力」である。
思わず笑ってしまった。
文章のリズムが気持ちいい。
さすが。
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コメント
〉bobbyさま
ご指摘ありがとうございます!
「頭痛が痛い」状態になってましたね…
お恥ずかしい(汗;
さっそく修正しました。重ねて御礼申し上げます!
投稿: 小田順子 | 2011/08/27 18:09
× 異質排他
○ 異質排除
投稿: bobby | 2011/08/27 16:35