Twitterのデマを見抜く ―想定外の状況での判断力を鍛える
■Twitterはデマ拡散マシーン?
―誹謗中傷、差別、風評被害
東日本大震災に関連したデマには、「被災地では強姦や窃盗が多発している」、「富士山から煙が出ている」、「天皇陛下が京都に避難された」、「コスモ石油の爆発により有害物質が降る」、「川崎のゴミ処理場に放射能で汚染されたごみが投棄される」など、誹謗中傷、差別、風評被害につながるものが多数、見受けられます。これらの情報は、うわさ話、メール、Twitterなどで多くの人に伝達されました。特に、TwitterのRT(リツイート)機能は、一瞬で多くの人に情報を拡散することができるため、その伝達スピードはメールなどの比ではありません。
なぜ人は、このようなデマを広めてしまうのでしょうか。
■流言の心理
―日本中を包む「不安感」
被災者だけでなく、多くの国民が不安を感じています。「眠れない」、「いつも揺れている感じがする」、「ちょっとしたことでも涙が出る」…こんな状態の人が少なくありません。
危険を避けるために情報がほしくなり、普段以上に情報収集をします。自分の「不安」を肯定するため、<不安がっても当然だと思えるような、不安になる話(流言)を広めてしまうことがあり>(※)、これを心理学では「認知的不協和理論」と呼ぶのだそうです。
人に伝えることで、不安を共有するのは、おしゃべりによるストレス解消に似ています。「自分はこんなことを知っている」という優越感を得たい気持ちもあるでしょう。さらに興奮状態が手伝って、よく考えずにメールの転送や、RT をするのです。
※ 碓井真史「東日本大震災の災害心理学 命と心を守るために」
http://www.n-seiryo.ac.jp/~usui/saigai/2011sanrikuoki_eq/index.html より
■「裏をとれ」
― Twitter は新聞・テレビに代わるか
「コスモ石油の爆発により有害物質が降る」という情報は、私が信頼している法律家(国家資格を有する方)のツイートで知りました。その方は信頼できる人ですが、情報の発信元がだれだか分からないので、私はRTしませんでした。
RTが繰り返されているツイートは、発信源を確認する=「裏をとる」必要があります。なかには、「コスモ石油の社員から」、「千葉在住の友人より」と明記されているツイートもありましたが、これではだれだか分かりません。「医師会からのFAXで」といった情報もあったようですが、この場合は医師会の公式サイトなどで裏をとるべきです。
今回の震災で、Twitterなどソーシャルメディアの威力を目の当たりにし、「ソーシャルメディアが、既存の新聞・テレビなどのメディアにとって代わる」という誤解もあるようです。Twitterは情報拡散装置であって、情報源はツイートしたユーザーです。情報の正確さ、信頼性は、新聞やテレビの情報とは異なります。情報発信者の責任の重さが違うからです。
■「裏をとれ」とはいうものの
―未確認情報による人命救助
自治体職員は、救助要請をRTすることはまずないでしょう。その要請に対して、何らかの支援、対策の行動を起こす時に、デマかどうかを見極める必要が出てきます。
しかし、前回ご紹介した、猪瀬東京都副知事による救出劇の際は、副知事は即座に防災担当者に伝え、裏をとっていませんでした。このことについて、NHKの科学文化部は、次のようにツイートしています。
@nhk_kabun NHK科学文化部 :
気仙沼市のあの救命メッセージをリツイした人の多くは、真偽は確かめないままリツイしたと思います。それがリレーされ猪瀬副知事につながり、早期の救助につながった。今後の貴重な事例になったと思います。
2011-04-15
ここは、副知事の「嗅覚」とでもいいましょうか。災害の現場で何が起こっているかは、現場にいる人しか分かりません。真偽のほどを確認することはできなくて当然です。確認できないからと無視してしまったら、公民館に取り残されていた人々の命はどうなっていたでしょうか。
■言葉から読み取る
―ディザスターズ・ハイ
自治体職員は立場上、未確認情報をもとに動くことが難しいのは事実ですが、人命救助を優先すれば、判断を迫られることもあるでしょう。では、裏をとれない時にはどんなことに注意したらいいのでしょうか。コスモ石油関連のデマ文章をもとに考えてみます。
メールバージョン:
千葉、首都圏の方へ。
千葉の製油所、製鉄所の火災の影響で千葉、
首都圏では、科学薬品の含まれた雨が
降ることが予想されます。
傘やレインコートの使用をお願いします!
広めて下さい!とりあえず広めて!
雨にあたらないようにして下さい!
ほんとに危ないみたい。気をつけて下さい。
Twitterバージョン:
【拡散希望】千葉在住の友人より。週明け雨の予報です。千葉周辺の皆さんご準備を!>コスモ石油の爆発により有害物質が雲などに付着し、雨などといっしょに降るので外出の際は傘かカッパなどを持ち歩き、身体が雨に接触しないようにして下さい!!!
この文調、言葉遣いから、危険な臭いを感じ取ることができます。
●感情を表す語…
悲しい、つらい、苦しんでいる、かわいそう
(これは事実ではなく、書いた人の感情・意見)
●あおる言葉…
今すぐ、大変、早く、危険、「!」の多用
このような表現には注意が必要です。セールスライティングには、相手の不安をあおる文章で購入させる手法があります。また、そのつもりはなくても、書いている本人が興奮状態にあると、状況を見誤り、結果的にあおることになってしまう恐れがあります。
「クライマーズ・ハイ」という映画がありましたが、さしずめ「ディザスターズ・ハイ」といったところでしょうか。未曽有の大災害に精神が高揚し、何事にも過剰反応をする人も見受けられます。原発関連の議論で「それは風評被害だ! 福島の人たちがかわいそうだ!」と激高してしまうとか、津波の情報に触れるとすぐに涙腺が緩むような状態です。
前回、猪瀬副知事の目に留まり、実際に救出に向かうにいたったツイートをご紹介しました。そこには、「母を助けてくれ!」と叫びたい気持ちを抑えて、「空から救助が可能であれば、子供達だけでも助けてあげられませんか」と書かれていました。
「想定内」の災害は、災害ではありません。被害が出れば、それは人災です。そのため自治体職員は、想定外の事態に対応する能力が必要とされることになります。デマか真実か、動くべきか動かざるべきか。熱い心を持ちつつ冷静に、思考・行動することが求められるのです。的確な判断をするためには、日ごろの業務で、住民とのコミュニケーションを通して、自治体職員としての嗅覚-想像力・分析力・判断力を鍛えるしかないのかもしれません。
小田 順子 プロフィール
1965年生まれ。1992年4月、東京中野区に入区。区立小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。 日本言語学会会員。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化情報プログラムに在籍
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成23年7月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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