Twitterの功罪 ―気仙沼、ロンドン、東京をつないだ命のツイート
■停電とサーバダウン
―いわゆるクラウド「Twitter」
東日本大震災では、被災地の自治体の多くが、公式Webサイトからの情報発信ができなくなりました。地震直後に庁舎やWebサーバを置いている会社が停電したためです。しかし、気仙沼市や岩手県、青森県、八戸市など、平常時からソーシャルメディアを活用していた自治体は、Twitterなどで災害の状況や避難情報を発信し続けることができたようです。
気仙沼市は、携帯電話の回線を使って情報発信を続けたことがNHKで放送されました。私のFacebook友達である岩手県広聴広報課の田島大さんからは、「私物のスマートフォンから情報発信をしていた」とお聞きしています。
復旧後も、アクセスが集中し、何度もサーバダウン。企業やボランティアの好意でミラーサーバを用意してもらうまでは、依然として公式サイトでの情報発信が難しい状態が続きました。一方Twitterは、そのトラフィックは計り知れませんが、長時間ダウンすることはなかったのです。
インターネットに接続できれば、どこからでも、どの媒体からでも情報発信できるTwitterは、無料で利用できる「クラウド」(本誌平成23年5月号の用語解説を参照してください)であり、利用しない手はない、と考えていいのではないでしょうか。
■Twitterの情報拡散能力
―ワンクリックでRT(リツイート)
私自身、正直にいって、災害時にここまでTwitterが活躍するとは思っていませんでした。理由は二つあります。
一つ目は、日ごろからTwitterのサーバが頻繁にダウンしていたからです。災害時のトラフィックには耐えられないと予想していました。しかし、日ごろの経験から徐々に強化されていったのかもしれません。
二つ目は、自治体アカウントのフォロワーが少ないため、ごく一部の人にしか情報が伝わらないと思ったからです。しかし、これもよい意味で当てが外れました。被災地自治体のツイートは、数人のユーザーによりRT(リツイート)され、そのフォロワーによりまたRTされ、瞬く間に伝播しました。その結果、行政の公式アカウントのフォロワー数も一気に増加したようです。気仙沼市危機管理課のフォロワーは、本誌平成22年12月号の取材記事によれば400人程度でしたが、今では3万人を超えています(平成23年5月7日現在)。
■Twitterが救った命
―猪瀬東京都副知事の英断
Twitterは簡単に情報を拡散させることができるツールです。RT機能を使うと、ワンクリックで転送でき、情報は数時間から数十時間で数千、数万の人々に伝わります。今回の地震では、フォロワー数の多い著名人が情報の拡散に一役買いました。これは、情報を拡散させるために、ツイート内に著名人のアカウントを含めて呼び掛ける手法によるものです。
どの程度の成果があったのかは定かではありませんが、実際の救出行動に結びついた例として、猪瀬東京都副知事による救出劇があります。これは、次のツイートがきっかけでした。
{拡散願い}障害児童施設の園長である私の母が、その子供たち10数人と一緒に、避難先の宮城県気仙沼市中央公民館の3階にまだ取り残されています。下階は津波で浸水し外
は炎上、地上からは近寄れない模様。空から救助が可能であれば、子供達だけでも助けてあげられませんか。
このツイートは、気仙沼市マザーズホーム園長・内海直子さんの息子さんがロンドンから発信したものです。「公民館の屋根。げんき」という母親からのメールに安心したのも束の間、気仙沼が火の海となっている映像をユーストリームで目にして、夢中でツイートしたそうです。これが次々とRTされ、そのうちの一つは、猪瀬副知事のアカウントに向けて発信されました。それを見た副知事は、救援を要請。結果、内海さんを含む400人余りが無事に救出されました。
猪瀬東京都副知事のツイート:
ディテールがあるので事実だと判断、伊藤防災部長に大至急、副知事室に来てくれと電話。部長は9階の防災センターから6階まで走ってきた。ツイッター見せた。即座にやりましょうと言った。RT @(内海さんの息子さんのアカウント)ロンドンから救助願いのツイートをした内海です。@inosenaoki:
2011-04-16 04:50:53
参考ページ:
- NHK「かぶん」ブログ 2011年04月15日 (金) 「リポート・命を救った情報ライフライン」(科文・西村敏記者)
- Togetter「気仙沼→ロンドン→猪瀬副知事 ツイッターによる救出劇」
■デマも一瞬で拡散
―便利な機能の裏側
副知事は「ディテールが書かれていたから信用できる」と書かれていましたが、以下のツイート(※)を読んで、あなたはどう判断されますか。
ユーザーA:
地震が起きた時、社内サーバールームにいたのだが、ラックが倒壊した。腹部を潰され、血が流れている。痛い、誰か助けてくれ。ドアが変形し、安定した情報が流れるまでは誰も動いてはならない旨が館内放送で流れている。それでは遅すぎる。腕しか動かない、呼吸ができない。助けを呼ぶことができない
2011-03-11 15:09:25
ユーザー○○:
場所はどこですか! RT @(ユーザーA):地震が起きた時、社内サーバールームにいたのだが、ラックが倒壊した。腹部を潰され、血が流れている。痛い、誰か助けてくれ。ドアが変形し、安定した情報が流れるまでは誰も動いてはならない旨が館内放送で流れている
2011-03-11 16:21:38
ユーザーB:
みんなRTして! 東京都台東区花川戸1-11-7 ギークハウス浅草301号 RT @(ユーザーA):地震が起きた時、社内サーバールームにいたのだが、ラックが倒壊した。腹部を潰され、血が流れている。痛い、誰か助けてくれ。ドアが変形し、腕しか動かない、呼吸ができ ...
2011-03-11 16:30:33
かなり詳しい情報が書かれていますね。このやりとりも、あっという間にRTされ広がりましたが、次のような続きがあります。
ユーザーC(Aと同一人物の別アカウント):
だから RT 嫌いなんだよ。お前等どんだけ連鎖させてんの。馬鹿だなー。
2011-03-11 15:58:37
ユーザー△△:
【拡散希望】東京都台東区花川戸1-11-7 ギークハウス浅草301号という場所は実在しません! RT どなたか、助けてあげて下さい!東京都台東区花川戸1-11-7 ギークハウス浅草 301号RT @(ユーザーA)地震が起きた時、社内サーバールームにいたのだが、ラックが倒壊した。腹部を潰…
2011-03-11 16:30:33
結局、「血が流れている」「助けてくれ」というのは、Aによるいたずらでした。場所をツイートしたBはAと同じ会社の社員で、こちらもAに便乗した悪ふざけですが、心配した人々のRTにより、拡散されてしまいました。救助のための通報をした人もいるようですし、東国原元宮崎県知事もだまされてRT してしまったほどです。
ユーザー□□:
スパムですよ!東さん! RT @higashimototiji: RT @××: どなたか、助けてあげて下さい!東京都台東区花川戸1-11-7 ギークハウス浅草 301号
2011-03-11 17:40:07
実在しない住所だったので、事なきを得たようですが、それにしても、不謹慎にもほどがありますよね。次回は、このようなデマに惑わされない方法について考えてみたいと思います。
※ http://togetter.com/li/110445より。一連のツイートは削除され、現在はツイートをまとめる仕組み「Togetter(トゥギャッター)」でしか見ることができない。
小田 順子 プロフィール
1965年生まれ。1992年4月、東京中野区に入区。区立小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。 日本言語学会会員。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化情報プログラムに在籍
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成23年6月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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