Web文章の表記のルール ― Public Relation
■公用文と広報文
― Web 文章は公用文?
Web文章は、「公用文」のルールではなく、「広報文」のルールで書きましょう。公用文のルールは一般市民になじみが薄く、行政職員向けの難しい表記などを使用しているからです。自治体の広報紙も、新聞などの報道文のルールを準用して書いていると思います。それを私は公用文と区別して、広報文と呼んでいます。
「Web文章だって、自治体が発信する文書である以上、公用文だ!」と言う方もいらっしゃるかもしれません。広い意味では確かにそうです。しかし、文書は目的によって使い分ける必要があります。「主に誰が読むのか」により、分かりやすさの基準も変わってきます。
例えば、新しく条例を作った場合、起案し、決裁を取ります。しかし、決裁済みの文書であるからといって、条例だけをそのまま住民に知らせても、理解しがたいことは言うまでもありません。要約したり、分かりやすい文章に書き換えたりして知らせることが必要であり、それが広報文です。
広報文はスピードや柔軟性を重視するため、必ずしも決裁を必要としません。極端な例を挙げれば、140文字の広報文「Twitter」がありますね。
私が在職していた東京中野区の広聴広報課の英語表記は「Public Relation Section」。「Public Information Section」ではないのです。「広報」とは、一方的なお知らせではなく、住民との関係作りだからです。そうであるなら、Web文章は広報文です。
■行政文書の種類
―目的によって使い分ける
公用文の表記の基準には、「公用文作成の要領」(内閣官房長官、昭和27年4月4日付各省庁次官宛依命通知別冊2)、「外来語の表記」(平成3年6月28日内閣告示第2号)、「現代仮名遣い」(昭和61年7月1日内閣告示第1号)などがあります。「公用文作成の要領」には、「法令の用語用字について」という規定があり、それとは別に、法令用語改正要領(昭和29年11月26日内閣法制局総発第89号)、法令における漢字使用について(昭和56年10月1日内閣法制局総発第141号)などがあります。
このことから、法令文は公用文の中で、特別扱いをされていると考えてよいでしょう。そこで、広義の公用文を、目的と読者で大ざっぱに分類すると、以下の表のようになるのではないでしょうか。
表 行政文書の種類
■公用文ルールと広報文ルール
―漢字が多いと難しい
文書を読みやすくするには、必要以上に漢字を使わない工夫が必要です。連載第3回(6月号)の「分かりやすい文(Sentence)の構造」で、「読みやすさの基準」をご紹介しました。それによれば、新聞の社説でも漢字使用率は5割、教科書や雑誌は約3割が読みやすいとされていました。
公用文と広報文を比較すると、公用文のルールのほうが、漢字使用率が高くなる傾向にあります。例えば、「又は」、「及び」、「若しくは」などの接続詞は、公用文では漢字を使うものとされていますが、新聞記事やWebサイトで漢字書きになっているものはあまり見かけません。自治体の広報紙やWebサイトも、そのほとんどが、「または」、「および」、「もしくは」と、ひらがな書きにしています。
『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞社)によれば、常用漢字の「又」は、表外字として使用しないこととされています。「及び」、「若しくは」は、<漢字で書いてもよい>。つまり、基本的にはひらがなで書くのがルールです。「もしくは」と読めない人もいるでしょう。漢字で書くと分かりやすくなるとは思えません。それならば漢字は避けたいですよね。
送り仮名に関しても違いがあります。『朝日新聞の用語の手引』では、活用のある語は、「支払い」、「手続き」、「取り組み」のように送り仮名をつけます。ところが公用文では、送り仮名をつけない<慣用が固定していると認められる語>として「支払」、「手続」、「取組」が正しい(昭和48年内閣告示第二号『送り仮名のつけ方』通則7)のです。
漢字だけだと格式ばった印象です。送り仮名がないと音読みをしたくなるのは私だけでしょうか。
■独自の広報文ルールを
― Web文章はPublic Relation
あなたは、文章を書くとき、読点を使いますか。それともコンマですか。義務教育の教科書や新聞などは、読点を使用していますよね。大学の先生、学生で、特に理系の方は、論文を書くときにコンマを使っています。Webサイトを見ると、文化庁や一部の自治体はコンマを使用していますね。
「公用文作成の要領」は、コンマを使うよう規定していますが、総務省(旧自治庁)の「常用漢字表による公用文作成の手引き」(平成4年)では、<句読点は,「。」及び「、」又は「,」を用いる>とされています。「、」優先のように感じられますが、コンマを使って書かれていました。このように、読点とコンマのルールはあいまいです。少なくとも広報文については、「こうでなければならない」といった絶対的なルールは存在しないのではないでしょうか。
中野区は、公文規程とは別に、「広聴広報事務運営規程」(当時)を定めていました。その特別規程に従い、広報文については、決裁ルートも表記の基準も、公用文とは別の扱いをしていたのです。Web文章の表記は、著作権等の法律とアクセシビリティだけ配慮すれば、あとは自治体の自由です。分かりやすさ、親しみやすさを追求し、公用文とも報道文とも異なる独自ルールを作成することができます。
連載第2回で、障がい者にも分かりやすい文章構造について書きましたが、本誌担当の編集部では、「障害者」と表記するルールになっていたそうです。しかし、「害」は好ましくない字ではないか、と議論した結果、「今後は障がい者と表記する」とルールを改めたとか。
ルールは変えることができるのです。ルールを作成・改善する過程で、住民と職員、あるいは職員同士が対話をする必要があります。このコミュニケーションが、分かりやすいWeb 文章を作る秘訣です。
小田順子プロフィール
1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報 コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化 情報プログラムに在籍
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成23年2月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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