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あなたの敬語、大丈夫? ―言葉は心を映す鏡

■バイト敬語はイケナイの? ―自治体職員の言葉遣い

 「こちら、○○になります」「○○でよろしかったでしょうか」「○○円からお預かりします」といった「バイト敬語」。敬語の使い方が間違っていると指摘される一方で、「別にいいじゃない」という人もいます。

 言葉は、正しいか間違っているかを突き詰めるとキリがなく、例え間違っていても、多数決で世の中に定着していくケースも少なくありません。ただ、「バイト敬語」は今のところ、ビジネスシーンでは好ましくないと受け止められているようです。私事ですが、わが愚息が漫画喫茶でアルバイトをしていた時、使ってはいけない表現として厳しく指導されていたそうです。

 おそらく「社員教育が行き届いていない会社」という印象を与え、企業にとってマイナスだからでしょう。自治体も同様ではないでしょうか。職員は、学生アルバイトのお手本になるような表現を心掛けたいものです。

 今回は、間違った敬語の使い方をいくつか挙げてみました。今更敬語なんて……と思われるかもしれませんが、ちょっと確認してみてください。

■「鈴木課長が申しておりました」 ―敬称の間違った使い方

 組織名に「御中」という敬称をつけた上に、宛名にも「様」や「殿」などの敬称をつけているのを見ることがあります。


× 東西市役所御中 総務課 田中
× 人事課職員各位殿
× 総務部長殿 / 鈴木課長様

 これでは二重に敬称をつけていることになり、「田中様様」と書くのと同じです。組織名と個人名の両方を書く場合は、組織名には敬称をつけず、個人名にだけつけるのが正しい書き方です。「各位」や「部長」なども同様で、「様」や「殿」はつけないよう気をつけましょう。

 住民に対して、あなたの上司のことを「鈴木課長」と書くのも誤りです。「鈴木様」と同じ意味になります。「課長の鈴木が」と書けば、この場合の「課長」は敬称ではなく職名になるので問題ありません。

 ただし、「庁内ではそれが常識」という場合は、「様」をつけないと怒られてしまうかもしれませんね。その場合は、外部文書だけ気をつけてください。

■「休暇を取らさせていただきます」 ―謙遜も過ぎれば傲慢となる?

 よくある間違えは、「休暇を取らさせていただきます」といった文法的な誤りです。助動詞「させる」「せる」はこの場合、<相手方の許しを求めて行動する意をこめ、相手への敬意を表す>ものです(「デジタル大辞泉」より)。ただし、動詞「取る」は五段活用なので、「させる」ではなく「せる」をつけて「休暇を取らせていただきます」と書くのが正解です。

 敬意の表し方として問題となるのは、「私が許可した覚えはない。お前が勝手に休暇を取るんだろう!」と住民にいわれてしまうのではないかという点です。そのため、「休暇を取っております」というべきだという意見もあります。

 「~させていただく」の使い方には賛否両論ありますが、相手の許可が必要な場合には、適切な表現でしょう。問題は、相手の許可が不要な場合です。許可は不要でも、「あなたのおかげで」「ありがたいことに」という気持ちを表現したものであればOKです。そのため、「禁止する」のような動作の場合は、「させていただく」は不適切。「禁止しております」とすべきですね。

 ちなみに、「おかげさまで、係長に昇格しました」といった表現は不快感を与えます。「おかげさまで」と思うなら、「昇格できました」と書くのが謙虚で気持ちのいい表現です。

■「ご利用できません」 ―うっかり書いてしまいがちな表現

 次のような敬語の誤用も時々目にします。

× 窓口の担当職員にうかがっていただけますか
 お聞きになってください/聞いていただけますか/お聞きください/お尋ねください

× お客様がご説明してくださる/ご説明していただく
 ご説明くださる/お客様にご説明いただく

× ご利用できません
 ご利用になれません/ご利用いただけません/ご利用はできません

 「うかがう」「ご説明する」は『敬語の指針』(平成19年文化審議会答申)では「謙譲語Ⅰ」です。つまり、図1のように自分で自分に敬意を表していることになってしまいます。

 

敬語の基本的な概念図

 また、「ご(または「お」)~になる(または「いただく」)」でひとかたまりの尊敬語です。「ご利用」と単独で使うと謙譲語となり、利用される側、つまりあなたの所属する自治体に敬意を表していることになってしまいます。

 相手の動作に「できない」をつける時は、先に尊敬語にしてから可能の意味をつけるのがコツです。「ご利用はできる」といった表現であれば、「お客様が利用する」の尊敬語なのでOKです。

■「佐藤様、おられますか」 ―間違いでも慣用化している敬語

 もともと「おる」は、「居る」の謙譲語で、相手の動作に使うことは失礼にあたるものでした。ところが誤用が多く、いつの間にか市民権を得たようです。『敬語の指針』でも、謙譲語Ⅱ(丁重語)としています。ただし「動詞・助動詞の連用形+ておる」の形では、やはり卑下する意味や、動作主を罵倒する意味を持ちます(「広辞苑」より)。「佐藤様は出勤しておられますか」と書くのは失礼にあたるわけです。周囲の人が使っていても、あなたは使わない
ほうがいいでしょう。

 敬語のルールは難しいと思います。しかし『敬語の指針』では、現代の敬語を<長い歴史的な変化の一つの過程>と位置づけて、<相互尊重><自己表現>と説明しています。ルールというより、良好なコミュニケーションのためのマナーといったところでしょうか。相手に敬意を払えば、相手もあなたを尊重するでしょう。あなたの気持ちはあなた自身に返ってきます。言葉はあなたの心を映す鏡です。

 

小田順子プロフィール

1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報 コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化 情報プログラムに在籍

※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成23年1月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。

 

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