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リスク回避の文章術 ―住民とのコミュニケーションを阻害するNG表現

■トラブル・クレームは仕事を増やす ― Web 文章に潜むリスク

 Web文章は、住民とのコミュニケーションです。書き方のポイントをおさえて、気持ちのよいコミュニケーションをとることができれば、トラブルも防げます。クレームを減らせます。

 逆に、不用意な表現で住民をひどく怒らせてしまうリスクもあります。問い合わせフォームなどから来た苦情に電子メールで回答したり、それを「住民の声」としてWebサイトに掲載したりすることもありますよね。その場合、あなたの書いた文章がしばらくの間は残り、誰でも見られる状態となります。

 文章が新たなトラブルやクレームを招かないために、今回は、うっかり使ってしまいがちなNG表現を挙げてみたいと思います。

■ ネガティブワードは使わない ―ポジティブなコミュニケーションを

 「ご存じないかとは思いますが、今年度より制度が変わり……」といった説明は、「知らないのはもっともだ。あなたが悪いわけではないですよ」という気遣いから発せられるのかもしれません。しかし、何となく感じが悪いものです。なぜでしょうか。

 「ご存じないと思う」という文章の中の、「知っている」という動作の主体は、「あなた」です。つまり、「あなたは知らない」がこの文の骨組です。「どうせアンタは知らないだろうけど」といわれているようにも感じます。「そんなひねくれた解釈はしないだろう」と思われるかもしれませんが、腹が立っている時や、相手を肯定的に受け入れていない場合は、物事を悪いほうへ解釈することも十分にあり得ます。

 ここは、「ご存じかとは思いますが」と、肯定形に変えましょう。

< NG 表現と言い換え例>

× ご存じないかもしれませんが
  →ご存じかとは思いますが、参考までに……

× ご理解いただけないかもしれませんが
  →ご理解いただけているとは思いますが

× □□はできません
  →△△であればできます(代案を提示する)

■根拠なき「常識」を押しつけない ―反対語を意識する

 ある講座に講師として招かれた時のことです。交通費の支給について明示していただけなかったので、「きっと実費負担だろう」と思った私は、安くなる交通手段を探しました。主催者側の費用負担をできるだけ軽くしてあげたかったからです。数時間かけてあれこれ検索し、結局、新幹線こだま号でのんびり行くことにしました。

 講座の間際になって、「ところで、往復の経路を教えてください」とメールがあったので、ルートなどを伝えたところ、「こだまをご利用とは珍しいですね」という返事がきました。「通常ですと、JRひかり号で往復となるのが一般的かと思います」と続きます。これにはさすがにカチンときました。私は「珍しい」人で、「通常」ではない、つまり「異常」な行動をとっている。「一般的」ではない、「非常識な人間」といわれているように感じました。

 自治体から講師を依頼された時は、このような面倒なことは起こりません。元自治体職員の私は、交通費の算出根拠や具体的な規定を知っているからです。たまたま相手が民間企業だったので、このような行き違いが生じたわけです。逆もまた真なり、ですね。役所の常識と世間の常識は異なることが多々あります。「通常」「一般的」という言葉を使う場合は、何を基準にしているのかを明示しましょう。

 「珍しい」には、語源の「愛づらし」の名残で、賞賛の意味もありますが、使い方が難しいので、相手の行動や持ち物などに対しては使わないほうが無難です。

< NG 表現と言い換え例>

× 一般的には……
× 通常は……
  →□□市の規定では……

× 珍しい
  →(相手の行動などに対しては使用しない)

■制度・規則を押しつけない ―思いやりの気持ちを

 法律や条例で定められていることは、クレームをつけられてもどうしようもないですよね。謝るわけにもいかない。自治体職員の、そんな苦しい立場はよく分かります。しかし、住民あっての自治体です。思いやりの気持ちは大切にしたいものです。例えば、次のようなメールが来たとしましょう。

<問い合わせ例>

 障害者手当ての「受給資格消滅通知」が届きました。「滅びて消える」という表現に心が傷つきました。ほかの表現はないのでしょうか。

<NG 回答例>

 「受給資格消滅通知書」は、東京都重度心身障害者手当条例施行規則第10条により定められている一般的表現であり、適切であると判断しています。

 悪気がなくていったことでも、相手が「今の言葉に心が傷ついた」といったら何と答えますか。「ごめんね。そんなつもりで言ったんじゃないよ」と謝りませんか。さらに、今後はその言葉は使わないように気をつけませんか。

 「心が傷ついた」と書かれているのですから、それは相手の気持ちであり、事実です。こちらが否定できるものではないのです。何らかの障がいをお持ちで、心身の健康に不安を感じて生活されているのだと思います。その不安を少しでも減らすのが福祉であり、行政の役目です。法律や条例などを振りかざしては本末転倒です。私だったら、上司と相談して次のような回答をします。

<推奨する回答例(ポイントのみ)>

  • 不快な思いをさせたことへの謝罪
  • 条例で決まっているとはいえ、配慮が足らなかったこ とに気付かせてくれたお礼
  • 今後、名称の見直しも検討する意向
  • 自治体行政への協力依頼

 実際に名称変更に向けて動き、成功の暁には、報道機関にニュースリリースを送るでしょう。新聞各紙やテレビで報道される自信があります。

 傷ついた気持ちにどのように対応するのがいいのかを考えると、「どう書くか」より「何をすべきか」の問題になります。これはもう、文章の書き方ではなくなってしまいますが、根本的な問題を解決しない限り、キリがありません。

 役所の仕事は、法律や条例など何らかの公的な規則に基づいて執行されています。それを曲げることは原則できませんが、それは住民のためにある規則なのです。住民の立場、感情に思いを至らせることも、やはり公務員の仕事なのではないでしょうか。

 

小田順子プロフィール

1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報 コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化 情報プログラムに在籍

※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成22年12月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。

 

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コメント

>kasai86先輩

コメント、ありがとうございます!

コールセンターのお仕事って大変ですよね~
その面倒をみる先輩も大変

投稿: CSMSライター:小田順子 | 2010/12/18 10:33

コールセンターの面倒を見ていると、表現の仕方がまずくて2次クレームに発展するケースがいかに多いことか。身にしみてます。

投稿: kasai86 | 2010/12/14 18:50

この記事へのコメントは終了しました。

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