イベント・講座情報の書き方 ―「誰にでも来てほしい」は「誰も来ない」
■ターゲットを絞る―顧客は誰か
イベントや講座に人を集めたいとき、地方公共団体には公式サイトという強力な広告宣伝ツールがあります。告知記事を掲載するのにお金はかかりません。絶対的な信頼と、個人レベルとは比べ物にならないアクセス数。とはいっても、事業の実施費用、Webサイトの維持経費、告知ページを作る人件費はかかっています。「良い企画なのに人が集まらなかったね」ということは避けたいものです。
集客するために、最も大切なことは「ターゲティング」です。「顧客は誰か」を具体的に設定し、その人の心をつかむ企画を作り、キャッチコピーを書きます。その際のポイントは、以下の3点です。
- ターゲットを具体的に描く
- ターゲットの言葉を使う
- ゴールを示す
以下に詳しく解説します。
11月号「イベント・講座情報の書き方」を印刷して読む(PDFファイル 638.6KB)
■ターゲットを具体的に描く―ライフスタイルを想像する
「誰にでも来てほしい」は「誰も来ない」。これは、東京都大田区の男女平等推進センター職員である牟田静香氏の著書「人が集まる !行列ができる !講座、イベントの作り方 (講談社プラスアルファ新書)」からの引用です。例えば「男の料理教室」を開催する場合、ターゲットを男性に絞るだけではなく、年齢層も絞る必要があります。牟田氏が夫(40代)に聞いてみたところ、「魚
のさばき方教室は行ってみたいが、年配の男性と一緒は嫌だ」という答えが返ってきました。実際、「年配者に説教めいたことをいわれるから楽しくない」と、徐々に若い参加者が減ってしまった講座もあるそうです。
性別だけではなく、年齢や職業などライフスタイルまで想像してみましょう。ターゲットを具体的に描くと、開催する曜日や時間帯もターゲットにマッチした設定ができて、より集客しやすくなります。同書には、ターゲット別の参加しやすい条件が掲載されています。曜日や時間帯について、一部をご紹介すると次のとおりです。
- 子育て中の母親
平日の午前。水曜日は幼稚園や小学校が早帰りのためNG。 - 若い父親
日曜の午前。子どもの夏休みの終わり。 - 就業者
土曜の午後またはノー残業デーの水曜の夜。 - 年配者
平日の午後。季節の変わり目は体調を崩しやすいので避けたほうがよい。
詳しくは同書をお読みください。行政のイベント・講座企画、チラシの作り方が具体的に書かれていて役に立ちます。
■ターゲットの言葉を使う―起案をリライトする
イベントや講座を実施する根拠としては、事業実施起案と、予算措置があるでしょう。しかし、起案に書かれていることをそのまま掲載しても、住民にとってはピンときません。
私が所属しているNPO法人のイベントを例に考えてみましょう。タイトルや告知文には、「耐震補強の国民運動」「自助・共助・公助による協働」「住宅密集地における耐震対策」などの言葉が並びます。「国民」「自助・共助・公助」「協働」「住宅密集地」「~における」は、日常会話の中に出てくるでしょうか。これは、防災・建築等の専門家や行政職員の使う業
界用語です。政策提言型のイベントで、専門家が集まって、あるべき方向を検討し、トップダウンで施策を進めよう、という場合は有効です。
専門家ではない人々の啓発が目的の場合は、違った表現をしなくては伝わりません。同じNPOでも、「サバイバルGAME in 六本木」と題したイベントのチラシには図1のような言葉が並んでいました。「サバイバルな理由」「彼女、彼氏」などは、公用文にない表現ですね。
図1 「サバイバルGAME in 六本木」のチラシ抜粋
開催日:2006年12月10日(日曜)
場所:六本木ヒルズ ハリウッドホール
主催:耐震補強フォーラム実行委員会
事務局:NPO法人東京いのちのポータルサイト
ちなみに、事業計画書にある事業目的は、「首都直下地震を迎え撃つため、10~30年後に日本社会の中心世代となるはずの若者たちの地震防災に対する興味・関心を得ること」です。イベントには、約400人の若者が集まりました。
■ゴールを示す―あなたは○○を得られます
イベントや講座に参加していただくためには、
- 何が出来上がるのか
- どのようなことができるようになるのか
- どのような知識を得ることができるのか
を示すと効果的です。
ただし、事業目的の「男女平等推進」や「健康増進」「地域コミュニティの活性化」などではなく、参加者にとってのゴールを「あなたは○○を得られます」と、身近な言葉で伝えます。例えば、
- 魚をさばけるようになる→かっこいい
- 10分間で低カロリーのおかずが作れるようになる→時間も身体もダイエット
- 金融商品の特性を知る→節約、貯蓄ができる
といったことです。
チラシ作りなどを専門の事業者に委託できればいいのですが、なかなか予算がとれないことも多いでしょう。その場合は、顧客を良く知る現場の職員や、描いた顧客像に近い人に聞きながら、集客できる文章の作成にチャレンジしてみてください。
小田順子プロフィール
1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報 コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化 情報プログラムに在籍
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成22年11月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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