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社会生活に必要な情報の伝え方 ―事務量軽減、収納率向上のために

■目的は「理解を得ること」 ―「分かる」文章を書く

 税金、年金、健康保険など、社会生活に必要な情報は、命に関わる情報の次に優先度が高いものです。分かりやすく書き、住民にきちんと理解していただくことで、事務量の軽減や収納率向上につながります。

 分かりやすく書くためのコツは、前回までにお伝えしてきたとおり、1文を短くする、易しい言葉を使う、結論を先に書くなどです。さらに、分かりやすいと感じてもらうだけでなく、理解を得るためには、次の3点に注意する必要があります。

  1. デメリットも隠さずに書く
  2. 「なぜ?」を伝える
  3. 住民の目線で情報分類する

 以下の具体例を見てみましょう。

memo9月号「社会生活に必要な情報の伝え方」を印刷して読む(PDFファイル 298.8KB)

■デメリットも隠さずに書く―国民皆保険制度

 今回は国民健康保険(以下、国保)の加入手続きに関するアンケートをご紹介します。国保は10代には難しいので、20代から70代の日本人の男女23人を対象に質問をしました。

図1 アンケート

 あなたの友人のAさんは25歳で、働いていた会社を辞(や)めたばかり。すぐに次の会社に就職せず、失業手当をもらおうと思っている、と仮定してアン ケートに答えてください。

 「区役所でしなきゃいけない手続きとかを調べてほしい」とAさんに頼まれ、区役所のホームページを見ていたら、次のページを見つけました。
 これを読んでわかったことをアンケート用紙に記入してください。

※ 基本的に、ここに書いていないことを調べる必要はありません。

 図1のアンケートの文中にある「次のページ」とは、国保の加入手続きを説明したWebページです。対象者のうち半分はA区のWebページを、残り半分はB区のものを見てもらいました。その結果、図2のように、回答の傾向がはっきりと分かれました。

図2

■A区のページを見た人の回答例

  • 健康保険資格喪失証明書又は雇用保険の離職票などが必要。すでに世帯のだれかが国保に加入している際はその人の保険証も必要(30代女性)
  • 免許証とパスポートを役所の窓口にもって行きなさい。ただ、すぐに次の会社が決まっているなら、3か月く らいなら放って置けば(70代女性)

■B区のページを見た人の回答例

  • 国保は職場の健康保険の資格がなくなった日から14日以内に届け出なければならない。遅れた場合その間の医療費は全額自己負担になる(20代男性)

 A区もB区も内容はほとんど同じで、文字数、平均文長、難易度も同レベルです。唯一違うのは、A区は、加入手続きをしないことで住民が受けるデメリットを書いていないことです。手続きをしなくてはならないことを伝えなければ、細かい手続き方法は読んでもらえないおそれがあります。

 国保の加入届けを14日以内にしなかった場合も、保険料(保険税)は、さかのぼって賦課(課税)されます。その間、保険証を持たずに医者に行き、医療費を全額自己負担で支払ったとしても、国保負担分の7割は戻ってきません。「そんな理不尽な制度は納得がいかない」と保険料を滞納すれば延滞金がかかり、最悪の場合は、財産差押さえなどの処分を 受けます。

 日本では、何らかの健康保険に加入することが義務付けられ、それを「国民皆保険制度」と呼んでいます。行政のWebサイトは、「助け合いの精神」と理念の美しさをうたい、「医療費が3割負担で済む」とメリットを強調します。そのため、「別に助け合いたいと思わない。今は健康だから、具合が悪くなったら健康保険に加入しよう」と思う人も多いのです。デメリットも隠さず伝えることが、苦情を減らし、適正な届出・手続きにつながります。

■「なぜ?」を伝える―大混乱の定額給付金

 2009年の定額給付金事業では、書類不備で再申請となるケースが相次ぎました。通帳、キャッシュカードの写しが同封されていないことが多かったそうで、中には対象者の7割が再申請となった自治体も。原因は、説明が分かりにくかったことと、「なぜ通帳の写しが必要なのか?」が不明だったことです。申請書に口座番号を書くのだから、写しは不要だろうと思った方が多かったようです。

 個人情報の記載された書類を提出してもらうのであれば、理由を説明する義務があります。先の例にある国保のデメリットを伝えるのは、なぜ手続きをしなくてはならないのかをご理解いただくために必要です。「なぜ?」を具体的に書くと、住民は理解し、納得した上で手続きをすることができます。

■住民の目線で情報分類する ―事務処理手順と届出手順の違い

 人によって必要書類や手続きが異なる場合は、手順を条件分岐しなければなりません。

 よく見かけるのが、図3のような「役所目線の情報分類」です。役所の事務処理手順としては、通帳の写しは共通事項で、日本人かそうでないかで条件分岐し、本人確認書類をチェックするのでしょう。しかし住民は、このように書かれると、(2)の「通帳またはキャッシュカードの写し」はどうしたらいいのか迷います。

Lasdecs1009_1

 これを住民の目線で情報分類すると、図4のようになります。

Lasdecs1009_2

 これならば、日本人は(1)だけを、外国人は(2)だけを読めばよいので、迷うことがありません。

 役所からお金をもらうための単純な手続きすら、混乱してしまうのです。ましてや、税金の申告、納付など、お金を払うための複雑な手続きはなおさらです。分からないために手続きや支払いをしていない人も必ず存在します。

 住民が正しく理解できるように書けば、問い合わせや苦情、再申請を減らすことができます。説得ではなく納得により、気持ちよく手続きをし、お支払いいただければ、収納率も向上するのではないでしょうか。

 高齢福祉、保育、保健衛生など、様々な届出・手続きがあります。住民が役所からの通知を受け取り、読むところを想像してみてください。「分かる文章」を書くためのヒントが見えてくるはずです。

 

小田順子プロフィール

1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報 コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化 情報プログラムに在籍

※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成22年9月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。

 

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