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災害時のWeb 文章 ―情報は命を救う

■災害時の広報文の書き方 ―『やさしい日本語(Easy Japanese)』

 命に関わる情報は、すべての人が理解できるよう発信すべきです。では、100%理解できるように伝えるためには、どのような配慮が必要なのでしょうか。

 弘前大学人文学部社会言語学研究室のWebサイトに、『新版 災害が起こった時に外国人を助けるためのマニュアル』(2005年発行)が公開されています。マニュアルでは、災害時の広報文の書き方として「やさしい日本語の作り方」の解説をしています(図1)。

memo8月号「災害時のWeb 文章」を印刷して読む(PDFファイル 345.9KB)

 

図1 やさしい日本語の作り方

  1. 1文を短くして、文の構造を簡単にする
    ×  地震の揺れで壁に亀裂が入ったりしている建物に近づかないでください
    ○  地震で壊れた建物に気をつけてください
  2. 動詞を名詞化せず動詞文にする
    × 揺れがあった   ○ 揺れた
  3. 二重否定を使わない
    × 通れないことはない
    ○通ることができます  通れます
  4. 難しい言葉でも、災害時にはよく使われ、知っておいたほうがよいものはそのまま使い、そのことばの後に<  >を使って言い換え、一緒に使う
    × 消防車   ○ 消防車<火を消す車>
  5. 外来語は通じない
    × ダイヤル…原語とは発音が異なる
    × ライフライン…原語とは意味が異なる
    ×  デマ…原語では行われない省略なので意味が通じない
  6. 「おそらく」「たぶん」などの、あいまいな表現は避ける

弘前大学人文学部社会言語学研究室『減災のための「やさしい日本語」研究会』より

   

 このように書くと、「外国人向けには、多言語で情報提供すればいいじゃないか」といわれることがあります。もちろん、併用することは必要ですが、次のような配慮も欠かせません。

1.高齢者や子どもへの配慮

 子どもは理解力・読解力が劣りますし、大人でも、加齢により低下することがあります。『やさしい日本語(Easy Japanese)』は、外国人だけではなく、お年寄りや子どもにも優しいのです。

2.住民としての外国人への配慮

 「母国語で表現された情報にだけアクセスすればいい」。そんな閉鎖的な生活を、日本で暮らす外国人に強いることはできません。日本語や日本の文化になじみ、日本人とともに生活していく手助けをすることも、自治体の役割ではないでしょうか。

3.社会・文化的背景への配慮

 社会・文化的背景が異なると、使用する言語に関わらず、情報が正確に伝わらない場合があります。例えば、世界には地震の起こらない国もあります。地震がどのようなものかを知らないと、避難訓練の目的も分かりません。翻訳ボランティアの方の話では、避難訓練を運動会と勘違いしている子どもや保護者もいるそうです。

 このような社会・文化的背景の違いを理解するためにも、『やさしい日本語(Easy Japanese)』を心がけることは効果的です。マニュアルには、次のような情報も掲載されているので、活用してください。

  • ラジオ放送や防災無線、テレビの字幕スーパーに使える「やさしい日本語」の案文(時系列)
  • 発災直後から使える「やさしい日本語」を用いたポスターやビラの具体例
  • 外国語で治療を受けられる病院のリストや、ボランティア団体、大使館への連絡方法  など

■社会・文化的背景への配慮 ―お役所用語は外国語!?

 配慮をしなければ、情報が伝わらないのかどうか、実験をしてみました。

 対象者は、10代から70代の日本人の男女31人です。当時公開されていた中野区のWebページの画面キャプチャー(図2)を見て、下の文を読み、AかBかの二者択一で回答してもらいました。

図2 中野区「2005年9月4日の大雨洪水関連情報」
(中野区・練馬区・杉並区は、国の激甚災害指定を受けた)

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 中野区では、2005年9月4日に大雨が降り、たくさんの被害が出ました。そのときの中野区の対応を読んで、感じたことを教えてください。

  • 2時8分
     上高田北原橋付近住民(妙正寺川)に避難勧告
  • 2時25分
     ホームページに河川水位情報(2時現在)を掲載
  • 2時53分
     上高田北原橋付近住民(妙正寺川)に避難指示

 あなたは、2時53分の「避難指示」のお知らせを聞いてどう思いますか?次の2つのうち、あなたが感じたことに近いほうを選んでください。

A:雨が強くなってきたのかな。ちょっと危ないかな。
B:雨が少し弱くなったのかな。もう安心かな。


 その結果、4人がBを選びました。つまり、避難勧告から避難指示へ移行したことについて、「災害の状況が軽減した。逃げなくてよい」と判断したといえるでしょう。これを自治体職員や日本語教師向け講座でも実施したところ、大学の先生と20代の広報課職員がBを選びました。

 「勧告」という語は「勧め、告げる」と書きますが、世間では「行政が何かを強制するもの、上から強く命令するもの」というイメージがあるようです。確かに「指示」とは異なり、日常生活では耳にしない「お役所用語」です。そのため、「避難勧告のほうが、避難指示より危険度が高い」と受け止めてしまうのでしょう。

 日本人同士であっても、役所と世間との間には、社会・文化的な背景に違いがありそうです。何気なく使っている言葉を、今一度、見直してみましょう。

■災害時にWebサイトは役立つか ―情報は命を救う

 ハイチ大地震では、多機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」の医療アプリケーションで情報を得て、一命を取り留めた例があります。地震、風水害、感染症、テロなどの災害が発生した時、自治体Webサイトの情報はどれだけの人の役に立つでしょうか。場合によっては、数十万人の住民のうち、ほんの数人しか見ないかもしれません。それでも、情報発信する価値はあると思います。

 もし、情報が伝わらずに逃げ遅れた人が1人だけであれば、「1人くらいは仕方ない」といえるでしょうか。その1人が、あなたの家族など大切な人だったら…と想像してみてください。

 救わなくてもいい住民は1人もいません。防災施策の目標は、「被災者ゼロ」です。

 

小田順子プロフィール

1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化情報プログラムに在籍

※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成22年8月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。

 

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