行政の広報文の分類と優先度 ―文章の平易度の基準とチェックツール
■文章の平易度の基準 ―日本語能力試験の出題基準
「文章は、中学生にも分かるように易しく書け」 とはよくいわれますが、易しいと感じるかどうかは 人によって異なります。文章の平易度は、何が基準になるのでしょうか。
情報処理学会研究報告の『日本語文の規格化』では、『日本語能力試験出題基準』の3級、2級、1級を基準に、平易度を3段階に分けています(図1)。これは、<「想定する読み手が理解できることを最低限保証するような規格または仕様」があってしかるべき>という考えに基づくものです。
7月号「行政の広報文の分類と優先度」を印刷して読む(PDFファイル 576.0KB)
図1 日本語の平易度の3段階
(『日本語文の規格化』(佐藤理史・土屋雅稔・村山賢洋・麻岡正洋・玉晴晴 Vol.2003 No.4)より)
日本語能力試験1級の漢字表は、常用漢字表とほぼ同じです。常用漢字はすべて義務教育で習得するので、「平易度1」の1級は、中学校卒業程度の漢字力でしょう。「平易度3」の3級は、「文字表現でいうと、小学校の2、3年生で習うくらいの漢字と平仮名およびカタカナによる表現」です(佐藤和之『やさしい日本語(Easy Japanese)』外国人のための災害時のことば,月刊言語,vo1. 25より)。
■難しい語句のチェック ―「平易度3」の具体例
日本語能力試験の3級レベルがどのような文章になるか、具体例を見てみましょう。
例:避難準備(要援護者避難)
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これは図1の「平易度3」が求められる「生命の安全に直結する情報」です。日本語能力試験3級レベルで理解できない漢字、語彙には下線を引きました。下線部を飛ばして読むと、避難をしなければいけないことが理解できません。実際、1995年の阪神淡路大震災では、言葉の意味が理解できずに、避難できなかった方もいらっしゃるそうです(弘前大学人文学部社会言語学研究室のWeb サイトより)。
■平易度の評価ツール ―日本語読解支援システムの応用
日ごろの業務の中で、いちいち『日本語能力試験出題基準』を見て難易度チェックをすることはできません。そこで、便利なツールをご紹介します。
日本語読解学習支援システム「リーディング チュウ太(Reading Tutor)」は、日本語能力試験を基準に、漢字や語彙の平易度を判定する辞書ツールです。図2は、例として挙げた、避難準備情報の伝達文をチェックしたものです。
図2 難易度のチェック結果
東京国際大学川村よし子氏と甲南大学 北村達也氏による「リーディングチュウ太」
このツールでは、2級は青字で、1級と級外は赤い太字で表示されます。この部分を易しい言葉に置き換え、だれにでも理解できる伝達文を作成することは、とても難しいことだと思います。災害が発生してからでは遅いので、事前に平易度をチェックし、準備しておきたいものです。
■行政の広報文の分類 ―優先度に応じた平易度
すべての広報文を「平易度3」の3級レベルにすることは、現実的ではありません。図1の「平易度の3段階」に沿って、広報文の内容ごとに優先順位をつけて分類すると、図3のようになるのではないでしょうか。
1.行政の政策情報(優先度1・平易度1)
施政方針や計画、予算決算などは、すべての人に知っていただきたいことです。しかし、命に関わる情報や、社会生活に密着した情報と比較すると、優先順位は低くなります。
2.社会生活に必要な情報(優先度2・平易度2)
「平易度1」は、中学校卒業程度のレベルです。税金、年金や健康保険など「社会生活を営むのに不可欠な情報」は、もう少し易しく書く必要があります。きちんと理解していただくことが、収納率向上や事務量の軽減につながるのではないでしょうか。
3.生命に関わる情報(優先度3・平易度3)
住民の生命を守ることは、優先順位が一番高いと考えて間違いないでしょう。中学校卒業程度のレベルでは、理解できない人もいます。外国人や高齢者にも伝わる易しい文章で伝えなければなりません。
次号以降は、優先度ごとに、具体的な書き方のポイトと事例をご紹介します。
小田順子プロフィール
1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化情報プログラムに在籍
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成22年7月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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