分かりやすい文(Sentence)の構造 ―読みやすさの基準とチェックツール
■分かりやすい文は字数の少ない文
―「1文30字」の原則
分かりやすい文を書くための最も簡単な方法は、字数を少なくすることです。1文が短いと、必然的にシンプルな構造となり、分かりやすい文になります。主語と述語がねじれる心配もありません。
逆に1文が長いと、初めのほうに書いてあったことを忘れてしまうので、理解しにくくなります。人間が情報を保持できる時間は3秒(※1)と言われています。1秒間に読むことができるのは10字程度(※2)なので、1文は10字×3秒=30字が目安です。
6月号「分かり
やすい文(Sentence)の構造」を印刷して読む(PDFファイル 761.2KB)
文の内容によって、読みやすさの基準は異なります(図1)が、複雑なことを伝える行政文書でも、1文は60字以内に収めましょう。
図1 読みやすさの基準(Just Systems『サポートFAQ』より)
■1文を短くするコツ
―1文(センテンス)1トピックの原則
短くするためには、1文に1トピック(話題)だけ書くことを意識してください。複数のトピックを詰め込んでいる文は分割します。切れ目は「~が、~で、~ので、~し、~として」などが目印です。
実際の行政文書を修正してみましょう。
これは、国土交通省公式サイトからの引用です。1文が126字で、次の三つのトピックを含んでいます。
- インターネットモニター制度を実施すること
- 制度の実施状況(平成16年度から実施)
- 制度の目的
伝えたいのは「意見を聴かせてほしい」ということですが、それはタイトルにしか書かれていません。
そこで、次のように書き換え、最長44字の三つの文に分割しました。
1.不必要な語は削る
・国土交通省では
「国土交通省」は場所ではなく、動作の主体であることを、明示すべきです。
・質の高い意見・要望等をお聴きし、
「質の高い」と限定するのは、高圧的な印象です。「皆様」と書くからには、「ご意見・ご要望」としたほうが、バランスが良いです。「等」をつけないと不安な気持ちは分かりますが、ここは分かりやすさを優先したいものです。
・16年度から毎年度実施しています。
住民にとって重要度が低い内容です。この後に続く詳細情報の中で、「インターネットモニター制度とは」と補足するだけで良いと思います。
2.繰り返しを避ける
・国土交通行政の課題に関しインターネットを利用して
「国土交通行政インターネットモニター」の募集なので、ここで繰り返す必要はありません。
・今後の国土交通行政の施策展開の参考とする
「の」が3回も続いています。過去の施策展開の参考とすることはできないので、「今後の」は不要です。「施策」は堅苦しい表現で、内容的にも「行政」で事足りるので削りました。
3.メッセージをきちんと伝える
・募集します。
・ぜひ、あなたのご意見をお聴かせください。
タイトルにはありますが、大切なことなので、最初と最後に書きました(序論と結論)。
■読みやすさの評価ツール
―ワープロソフトの機能を活用する
ワープロソフトの「Word」、「一太郎」には、「読みやすさの評価」機能があります。これは、平均文長や漢字使用率をチェックしてくれるものです(図2)。
図2 Microsoft Office Word 2003での評価結果
TIPS:「読みやすさの評価」機能の利用方法
- 一太郎:[ツール-文書校正]→[読みやすさ]
- Word 2003:[ツール]→[オプション]→[スペルチェックと文章校正]タブ→「文書の読みやすさを評価する」
- Word 2007:[Microsoft Officeボタン]→[Wordのオプション]→[文章校正]→「文章校正とスペルチェックを一緒に行う」→「Wordのスペルチェックと文章校正」の「文章の読みやすさを評価する」
日本人独特の心遣いから、文が長いほど丁寧で格調高いと思いがちですが、メッセージが伝わらなければ本末転倒です。思い切って短くしましょう。
※1 ドイツの神経生理学者、エルンスト・ペッペルによれば、「人は3秒までだったら情報を心の中に保つことができる」のだそうです。例えば「キューバ、キューバ・・・」と繰り返し言うと、やがて「バキュー」に聞こえてきてしまいます。それが3秒を越えた時点というわけです(所眞理雄・茂木健一郎編、竹内薫訳『脳の中にいる天才』日経BP)。
※2 『JIS X8341 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3 部』(日本規格協会)の「5.8 a 変化する画像・テキスト」(" 開発・制作に関する個別要件" に関する解説)に、「静止した文章でも1秒間に読める文字数は10文字程度となる」とあります。
小田順子プロフィール
1965年生まれ。1992年、東京中野区に入区。小学校、国民健康保険課、情報システム課、広聴広報課、保健所を経て、2007年3月退職。現在は広報コンサルタントとして、自治体、公益団体、NPO法人や士業事務所など公益性の高い組織・個人を支援。日本災害情報学会会員。放送大学大学院修士課程文化情報プログラムに在籍
※この記事は、地方自治情報センター発行『月刊LASDEC』平成22年6月号に執筆した記事をHTML化し掲載しています。掲載に当たっては、地方自治情報センターの承諾のもと掲載しています。
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