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3-5 お役所用語は外国語 ―語用論的転移

5 お役所用語は外国語 ―語用論的転移

 伊藤は、第二言語を運用する際に、母語の社会文化的規範が第二言語へ転移する「プラグマティック・トランスファー(語用論的転移)」という現象について述べている。

 語用論的転移は、<第一言語と第二言語の社会文化的規範が異なっている場合に、第一言語の社会文化的規範を第二言語に当てはめると出現する>もので、例えば、断りの行為において、日本人はまず「お詫び」という言い訳をするが、アメリカ人は先にはっきりと断る。
 日本人は、アメリカ人の直接的な断りを不快に感じ、逆にアメリカ人は、日本人のあいまいな返事を不快に感じることがあり、コミュニケーションに支障をきたす。(伊藤恵美子『中間言語語用論の潮流―実例研究から実証研究へ、共時的研究から通時的研究へ―』「ことばの科学」第16号 2003.12 名古屋大学言語文化研究会)

 この第二言語を行政用語とし、母語を一般市民の社会生活で使用する言語と見立てると、一般市民が行政用語を読み聞きする際に、わかりやすいと感じるか否かは、その人の社会文化的規範が影響するのではないかと思われる。

 名古屋市議会議員の長谷川由美子氏は、2000年6月、市議になって初めて市に提案した際に、「研究課題とする」との回答を引き出した。その提案を市側が実施すると思いきや、先輩議員に「あれは"やらない"という意味だ」と言われ驚いたという。

 そこで、2001年2月の名古屋市議会定例会前後での質問に対する答弁内容について、その後の状況を調査した。

 調査結果は資料8のとおりで、提案内容の実施率に着目すると「研究課題としていく」と答弁したものについては0%である。

※注

 資料8については、卒論掲載の許可のみいただいたものであるため、ここでは公表しないが、その内容は、以下の答弁内容ごとに、事業の実施率を調査したものである。

  1. 「前向きに検討していく」と答弁したもの
  2. 「今後検討していく」と答弁したもの
  3. 「検討課題とする」と答弁したもの
  4. 「今後研究していく」と答弁したもの
  5. 「研究課題としていく」と答弁したもの

 調査結果は、それぞれ「実施済み」・「実施中」・「検討中」・「研究中」・「実施しないことを決定」の5項目のパーセンテージが示されており、1.は実施率が最も高く、2.3.4.と実施率が低下し、5.は「検討中」が10%、「研究中」が80%、「実施しないことを決定」は10%ともっとも実施可能性が低かった。
 お役所用語としては、「研究」や「課題」という答弁をした場合、その事業を実施する可能性は低いことがわかる。

 この調査結果を掲載した読売新聞の記事では、<「検討」との答弁があれば実施率は高い。しかし、同じ「検討」でも下に「課題」がついた途端、実現性は20%に落ち込んでいた>と分析する。(読売新聞「日本語の現場」第48回 2004年6月16日朝刊)

 「検討」「課題」「研究」という単語は、例えば言語学の論文を読んでも、これから実施しようとしている事柄について使用されている。しかし、行政の議会答弁においては意味が異なる。お役所文化に馴染んでいる人でなくては理解困難である。かといって、「それは実施しません」と即答すると、お役所社会においてはコミュニケーションに支障をきたすのであろう。

 このようなことも踏まえると、表記に関する規則や内容語の言い換え規則は、統一性により共通認識というわかりやすさを担保するものであろうが、伊藤恵美子が指摘する語用論的な要素も含んでいるように思われる。

 よって、第2章までの文を単位とするわかりやすさに、第3章の文書構造と語用論的側面も加味し、以下に行政の広報文を検証する。

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