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3-4 役所の常識は世間の非常識 ―語用論的側面

4 役所の常識は世間の非常識 ―語用論的側面

 高橋善文らが指摘する内容の品質を、マニュアルではなく行政の広報文に置き換えてみた。

 1.内容の品質・・・話題・コンテンツの選択時に決定

  1. 住民に伝達する情報は必要な内容か
     住民が知りたい情報と行政が知らせたい情報が異なることもある。行政側が知らせたいことは、政策的な内容かつ聞こえのいいことと、手続きをきちんとして欲しいことだが、住民が知りたいことは、身近な制度の基本的な利用方法や手当てをもらえるなど得をする情報である。
  2. 広報媒体の特性を生かした内容となっているか
     新聞や広報紙などアナログ媒体は高齢者には必要とされているが、若者は見ようともしない。ホームページなどデジタル媒体は、特定の住民しか見ることができない。
  3. 構成は適切か
     広報紙でいえば紙面割、ホームページはカテゴリであろう。

 この中でも特に、「知らせたいこと」と「知りたいこと」が異なっていると、表現の品質が確保されてもわかりやすい文章にはならない。しかし、行政と住民との意識のズレは様々な場面で見られる。

 私は現在(※2006年当時のこと)、保健所で予防接種を担当しているが、昨年は麻しん(はしか)と風しんの予防接種の制度改正があり、複雑な新制度の内容を住民に理解してもらうために苦労した。

 主な変更内容は次の2点である。

  1. 麻しん(略称:M)と風しん(略称:R)の単独ワクチンを1回ずつ接種
    →混合ワクチン(通称:MRワクチン)を2回接種
  2. 接種対象年齢は1歳以上7歳6か月未満
    →1歳児と就学前の1年間の児童に限定

 なお、麻しんまたは風しんのどちらかに罹患した児童はMRワクチンを接種できないため、罹患していないほうの単独ワクチンを接種することになる。

 このことをホームページや広報紙で伝えたところ、1件の苦情の電話が入った。
 電話の主は、「風しんに罹患したことがあるため、麻しんの予防接種を受けようと思った。そこで区から送られてきたMRの予診票を持って医者へ行ったところ、麻しん単独ワクチン用の予診票を持っていないと接種できないと言われ、無駄足になった」と言う。

 予診票は、無料で接種できる証であり、そういう意味では金券である。
 当然、そこに表示されている種類のワクチンしか接種できないものだが、それは「役所の常識」である。
 一般市民にしてみれば、「MR」は麻しん(M)も内包しているわけで、5千円の料金を1万円札で支払おうとしたら断られたような状態だったのであろう。
 「単独ワクチンを接種する時は、MRの予診票は使えないということを説明しないのは不親切だ」とお叱りを受けた。

 そのため現在は、ホームページに次の文章を表示している。

「※麻しん単独ワクチン及び風しん単独ワクチンを接種する場合は、MRの予診票は使用できません。区保健所、各保健福祉センター、子ども総合相談窓口(区役所3階)で単独ワクチンの予診票と引き換えます。母子健康手帳を持ってお越しください。」

 この例のように、「聞き手の知識を前提とする理解」を無意識に期待するような文章は、表現上のわかりやすさを心がけても、前提となる知識を共有していなければ、わかりにくいものとなってしまう。
 伊藤恵美子は、<社会的・文化的・歴史的側面は、語用的能力に深く関与している>と指摘する。(伊藤恵美子『中間言語語用論の潮流―実例研究から実証研究へ、共時的研究から通時的研究へ―』「ことばの科学」第16号 2003.12 名古屋大学言語文化研究会)

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